石原が起こすミラクルな珍プレーは、劇的なサヨナラ打から、見たことのない珍事まで多種に及ぶ。
それらを、愛を込めて「インチキ」と呼ぶファンもいるが、筆者は「石原マジック」と呼びたい。想像を超えた不思議プレーを演出しているのは石原なのだから、これは石原の「マジック」と呼んでもいいだろう。
石原の16年のキャリアのなかで注目したいポイントがある。通算打率は.240と高い数字を残しているわけではないが、日本タイ記録となる6年連続サヨナラ打を放っているのだ。
サヨナラの好機に打席が回ってくる巡り合わせのよさからして、すでにミラクルじみたものを感じるが、たとえヒットを打たずとも、その好機に応えるのが「石原マジック」の真骨頂。
ファンの間で有名なものは、2011年5月14日の「サヨナラ押し出し死球」だろう。満塁の好機で、石原の体にボールが吸い寄せられていく様は神秘的な力が作用しているのでは? と思えてしまうほどだった。
ノーヒットながら殊勲者としてお立ち台に立った石原の姿にはファンだけでなく、本人もさぞかし違和感があったことだろう。
2014年8月28日に放ったサヨナラ打も完全にダブルプレーだと思われた当たりがイレギュラーするなど、これまた神秘的の力を感じさせるものだった。
様々な「石原マジック」のなかで、記憶に新しいのが、昨シーズンの7月27日の巨人戦で見せた珍走塁だ。
5回、1死満塁。広島のチャンスで田中広輔が二塁方向へライナー性の打球を放ったが、打球はショートバウンドし、セカンドゴロとなる。
ライナーと判断した二塁走者の石原はヘッドスライディングで帰塁。それより早くボールは二塁に送られ、審判はアウトのコール。
これは、一塁走者に対する二塁フォースアウトのコールだった。それを理解した(?)石原は、まるで自身がアウトになったかのようにとぼとぼと三塁ベンチの方向へ。そして、気づくと三塁ベース上に立つ石原の姿が……。
巨人の内野陣が石原に注意を払わないスキに、まんまと三塁へ到達してしまったのだ。これぞ、アウトを偽装した巧妙な進塁。年々、老獪さを増す「石原マジック」を見せてくれた。
偽装といえば、2013年5月7日のDeNA戦で見せた捕手・石原のプレーも忘れがたい。弾いたボールを見失ってしまい、走者に進塁されそうになったところ、足元の砂をつかみ偽装送球。見事に「石原マジック」で進塁を防いだ。
ますます老獪さを増す石原の偽装術を今後も注目したい。
つい珍プレーに目がいきがちになるが、石原の真の魅力は捕手としての能力の高さに尽きる。
昨シーズンは、自身初のゴールデン・グラブ賞に輝き、ベストナインにも選ばれた。着実にキャリアを積み、今や達川光男(現ソフトバンクコーチ)と並ぶ、広島史上屈指の捕手との呼び声も高い。今シーズンは広島捕手史上初の1000安打達成も迫っている。
若手時代から数々の苦難を乗り越えてつかんだ実績の重みは、その技術の高さが裏打ちしているのだ。
捕球時にミットを動かさず、審判から見やすい位置で捕球することで、際どいコースをストライクとコールさせる技術は一見の価値あり。
絶妙のコースにきたボールを捕ると、審判の三振コールと同時、もしくはやや早くボールを回す様は、「捕球技術で奪った三振」の証明なのか? これぞ真の意味での「石原マジック」といえるだろう。
想像を超える石原マジックを楽しみながら、卓越した守備能力を堪能したい。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)