まず琴線に触れたのは「平成のミスタータイガース」鳥谷敬(阪神)。「初受賞」とあったのでクエスチョンマークが浮かんだが、すぐに「三塁手としての初受賞」ということを理解した。
鳥谷はルーキーイヤーの2004年から、遊撃一筋でプロ生活を送ってきた。しかし、昨季は「1軍公式戦600試合連続フルイニング出場」の金字塔を打ち立てたが、成績的には自己最低レベル。期待の若手・北條史也の台頭もあり、シーズン途中で12年間守ってきた遊撃の座を追われてしまった。
さらに今季のキャンプでは、金本知憲監督から「遊撃のレギュラーを任せることはない」と通告をされ、三塁手の道を歩むことに。
しかし、この逆風を受けて開き直ったのか、今季は打率.293と持ち直し、NPB史上50人目となる2000安打を達成。肝心の守備でも143試合すべてに出場した上で9失策と上々。堂々の「初受賞」につながった。
鳥谷は37歳。そのまましぼんでもおかしくない苦境で見事に復活を遂げた。遊撃部門で4度の受賞歴を誇る鳥谷だが、今回の「初受賞」は格別だろう。
続いては鈴木大地(ロッテ)。昨季までは鳥谷と同様に遊撃を務めていたが、持ち前の打撃を生かすため、今季から本格的に二塁にコンバート。これが実り、プロ入り6年目にしてうれしい初受賞となった。
近年のパ・リーグの遊撃手といえば、まず今宮健太(ソフトバンク)の名前が挙がる。抜群の身体能力を生かした守備はダイナミックかつ正確。今季を含め、ゴールデン・グラブ賞を5年連続で受賞中だ。
この若き守備の名手に対抗するとなると、なかなか厳しい。しかも、鈴木はチーム事情で二塁や三塁に就くこともあったため、遊撃の印象が薄くなるデメリットもあった。
しかし、今季は二塁コンバートが奏功した。プロ入り後、初のポジションで全試合に出場し、失策5。初受賞に何の疑問も沸かない。
もっと早くコンバートしていたら……と思わないでもないが、何がベストなのかわからないのが人生。鈴木はまだ28歳だ。来季は井口資仁新監督が三塁へのコンバートを明言している。さらなる進化を遂げるであろう鈴木の未来に期待したい。
最後に切り込み隊長として下克上に貢献した桑原将志(DeNA)を挙げたい。中堅の守備が評価され、初の勲章を手にしたが、高校時代は遊撃手。もともとは内野手として期待されていた。
しかし、プロに入って慣れない二塁を守ったために送球イップスに陥ってしまう。思うようにプレーできないなか、危機感を振り払うように、活路を求めて外野に挑戦したのだ。
その後、登録も外野手に変えて心身ともに切り替えると、年々出場機会が増加。昨季、133試合に出場してレギュラーの座をつかむと、今季は全試合に出場し、初受賞に至った。
理由が理由だけに、コンバートはプロ野球選手として最後の賭けだったはず。厳しい世界で生き残るには、大博打も必要と知らしめた。
この賭けに勝ったことで、桑原はさらに成長するだろう。来季以降も受賞を重ねて、この初受賞がひとつの通過点だったと思わせてほしい。
プロの世界で慣れ親しんだポジションに居続けられる選手はほんのひと握り。実績の乏しかった桑原はもとより、鳥谷や鈴木という主力選手でさえ、チーム事情によってはコンバートされる。
あらためて厳しい世界だと感じるが、それだけに今回のゴールデン・グラブ賞受賞者を眺めていてトップクラスの選手のすごさを思い知らされた。
ありきたりな言葉ではあるが、持ち場を失っても立ち上がるプロ野球選手はかっこいい! この言葉を「初受賞」のはなむけに贈らせていただきます。
文=森田真悟(もりた・しんご)