巨人との直接対決を、鮮やかな逆転勝利で飾り、ついに待望のマジックが点灯。夢にまで見た優勝がいよいよ目の前に迫ってきた。
マジック点灯を受け地元・広島の各放送局は、臨時ニュースでその一報を伝えた。ほかにも、広島駅に優勝カウントダウンボードが掲示されるなど、広島ではさながらお祭り騒ぎとなっている。
時を同じくして、マジック点灯試合の現場・東京ドームでもファンの歓喜の声が鳴り響いていた。
「25年ぶりの奇跡を生で見られるなんて…。最高でぇーす!」
鈴木誠也を真似て叫ぶのは、40代の男性。見ていて少々恥ずかしいが、その叫びたいほどの気持ちはよくわかる。
また、30代男性は、こう言って目を輝かせていた。
「今年は、新井さんの2000安打と、300号ホームランなど、メモリアルな試合を関東でやってくれてます。点灯も関東なら、優勝も関東でしてほしい! 期待してます!」
彼が言う通り、今シーズンは、新井貴浩の2000安打、300号本塁打が神宮球場で達成された。
奇しくも、9月は関東での日程が多く組まれているので、関東で優勝を決める可能性も多分にある。
昨今の広島人気の火付け役は、関東のファンという呼び声も高い。弱小時代から足繁く通ってきた関東のファン達も、目の前での優勝を渇望してやまない。奇跡は起こるのだろうか?
「順位表のカープの横にあるM20って何?」
ネット上には、そんな書き込みもあった。さすがにネタだろう……。そう思われるが、25年も優勝から遠ざかっていた広島。今、30代のファンは、25年前には小学生だった人がほとんどだ。
それ故に、マジックを生まれて初めて体感するファンもかなり多いのだ。近年、話題を振りまいていたカープ女子。彼女達の多くがこれまで優勝を知らずに、この状況を迎えていることを考えると、あながちネタとも言い切れない!?
「ワシは最初から緒方監督を信じとったよ」
そう語る、初老のファン。このファンだけでなく、緒方孝市監督を賞賛する声が、今シーズンは数多く聞こえる。結果を残している以上、賞賛は当然。批判に晒されるいわれはないだろう。
しかし、昨シーズンの緒方監督は何をしても批判の渦の中にいた。そんな緒方監督を、最初から信じていたと豪語されてもイマイチ信用し難い。
この手の平返しは、広島ファンの気質なのか? 批判され続けていた新井貴浩も、今やチーム一の人気選手となった。
かたくなな反面、結果を出した者に対しては寛大。悪くいえば手の平返しだが、結果に対して素直な評価ができるのも広島ファンの特徴なのかもしれない。
最後に。
「オレはまだ、リメークドラマにおびえている」
「ここで優勝しても、CSで負けるのが恐い」
優勝を目前にしてもなお、こういったネガティブな発言は根強い。25年に及ぶ負の歴史。辛酸を舐め続けてきた過去は、一時の歓喜では拭えないのだろうか? その気持ちもわからなくはない。
優勝を目前に浮かれるファンとは一線を画したいという気持ち。その頑固さも、広島ファンの気質なのだと思われる。はたまた、心のどこかで弱い広島を愛おしく思ってしまっているのかも!?
と、様々な感情が溢れたマジック点灯の日。勝つことに不慣れな広島ファンは、優勝という事実に対していろいろな感情をさらけ出している。総じて嬉しい気持ちはあるものの、感情表現は人それぞれだ。
この後、優勝が決まったとき、一体どういう感情が溢れるのか? 独特な気質を持つ広島ファンの反応が、今から楽しみでならない。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)