ニッポン放送、千葉テレビ、日刊スポーツを中心に「野球解説者」として忙しい日々を送る里崎智也氏。引退直後から始めたTwitter(@satozakitomoya)はフォロワー数が11万人以上を数え、今季からはオンラインコミュニティ「乾杯!ほろ酔いプロ野球部」の部長としてさまざまな“ぶっちゃけトーク”を展開。何かをつぶやき、発言すればすぐにネット上で取り上げられる人気を博している。
振り返れば、現役時代からマイクパフォーマンスで人気を博し、ディナーショーも開催。加えて、「下克上」「ゴールデンイヤー」などの“流行語”も多い。その言語感覚、ヒットワードを生み出す秘訣はどこにあるのか? 「里崎智也の生き方・考え方」を聞いた。
里崎智也、と聞いて、そのプレー以上に2010年に成し遂げたリーグ3位からの日本一……いわゆる「史上最大の下克上」を思い出す人も多いはずだ。ファイナルステージ進出時、里崎氏が「最高の下克上を見せる!」と発言したことがすべての始まりだった。
ちなみにロッテは2005年にも日本一を達成。そこで昨季、5年周期での日本一達成を目指すロッテを「ゴールデンイヤー」と称し、これまたファンの間では話題になった。売れっ子のコピーライターのように、なぜ流行語を生み出せるのか? 里崎氏に尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「答えは簡単。言ったもん勝ちだからです(笑)。講演会なんかでもよく、『発言したことが実現できなかったら…と怖くなりませんか?』と質問されることがあるんですが、できなかったら皆、忘れるんですよ。僕の戯言なんかに世間の皆さんは興味ないんですから(笑)」
世の中は忘れやすい。ましてやこの情報過多の時代にあって、言葉の賞味期限は短く、儚いことを誰よりもよく理解しているわけだ。
「年末のユーキャン新語・流行語大賞にしても、発表されると「え? これって今年だっけ!?」となるじゃないですか。みんな、覚えてないんですよ。その代わり、成し遂げたときの反響はデカイ。だから、ノーリスク・ハイリターンなんです。『下克上』にしたって、日本一になったから注目を集めただけで、負けていたら僕の発言そのものを忘れてますから。そもそも、『下克上』なんて昔からある言葉ですし、そもそも本来の意味とちょっと違いますしね(笑)」
それでも、「下克上」に関しては誇らしい気持ちと悔しい気持ち、両面があるという。
「今や日本のスポーツシーンで、どの競技でも『下克上』って使うようになりましたよね。そう考えたら、『ヒットキャッチメーカー』みたいな賞が欲しいですね(笑)。Jリーグなんかでも『下克上V』と使われているのを見ると、いやいや、その言葉、俺に著作権あるよ、と言いたい(笑)」
里崎氏の発言が人気を呼ぶのは、何かに配慮や遠慮することなく、思ったことや言いたいことをズバッと言い切ってくれるからだ。それは簡単なようで、本来は難しいはず。そんな疑問を向けると、里崎氏は「みんな、しがらみが多すぎるんですよ」と、言葉を続けた。
「僕にはしがらみがないんです。もちろん、挨拶をする、とかそういった上下関係は大切にしますよ。でも、現役時代から後輩はもちろんのこと、先輩にだって、チームのためになると思えば耳に痛いことでも言ってきました。だから、誰かに気を遣うってことがないんです。自分に正直に生きる、これに尽きます」
先輩に気を遣う、後輩可愛さに言葉を選ぶ……そんな「配慮」こそが解説業に不要なものだという。
「僕はその先輩や後輩のためじゃなく、放送局から依頼を受けて放送席に座っています。視聴者やリスナーが求めていることを喋るのが僕の仕事。だから、しがらみなんか気にする必要はないし、もし何か言われたとしたら、『じゃあ、(みんなで)討論会しましょう!』と言いますよ」
旺盛なサービス精神と好奇心。独創的で遠慮のない言語感覚。さらには明るいキャラクターも手伝って、解説業以外でも、「ラジオDJ(bayfm78)」「特命講師(千葉商科大)」「タレント活動」などなど、活躍の幅をさらに広げている里崎氏。来るモノは拒まず、スケジュールさえあえば積極的に新しいことに取り組みたいという。
「野球では16年積み上げてきたものがあります。でも、ひとたび野球界を離れてしまえば、僕には実績も経験もありません。だからこそ、お声がけいただける仕事はなんでも積極的にやろうと思っています。仕事を選ぶことなくひとつずつクリアしていくことが経験になり、実績となり、僕のスキルになっていく。そうやって、これからの『新しい里崎智也』が形作られるわけです」
今年からはテレビ・ラジオの仕事に加えて、オンラインコミュニティ「乾杯!ほろ酔いプロ野球部」の部長にも就任。既存のメディアであっても言いたいことを躊躇なく、遠慮なく発言するスタイルは、会員制サイトでさらに“破壊力”を増しているという。
「ファンの方とのチャット上でのやり取りもありますが、僕に質問するのは命がけだと思います(笑)。中途半端なやり取りなんて一切しませんから。あと、やっぱり現役時代に培った理論があるから、誰に対しても自信をもって発言ができる、というのはあると思います」
そんな里崎氏の野球論を堪能できるイベントが5月26日に開催される。その名も「里崎智也のプロ野球語り呑み」。仁志敏久氏(元巨人ほか)、野村弘樹氏(元横浜)をゲストに、プロ野球ファンと呑みながら語らう新感覚のトークイベントだ。
4月に開催した第1回でも、里崎氏の自信に満ちあふれた発言は会場にいた多くの野球ファンの心を掴んでいた(この模様は後日、レポートする予定)。
「『自信こそ最大の力。』これが、僕の大好きな言葉なんです。」
『自信こそ最大の力』──この言葉を胸に、解説者として邁進する里崎氏。その自信の背景には、自ら築き上げた「理論」とは別に、ある要素が大きく影響しているという。
「個人の実績でいえば、僕はたいした選手じゃないんです。1000試合ちょっと(1089試合)しか出てないし、ヒットも1000本打ってません(890安打)から」
本人は謙遜するが、1000試合以上出場した捕手では日本プロ野球最少となる通算捕逸19個という記録を持つ里崎氏。それでも、歴代の偉大な選手たちと比べると「自分は普通の選手ですよ」と語る。「その代わり……」と、里崎氏は言葉を続けた。
「僕は“オプション”がすごいんです。WBC?世界一になってますし、ベストナインにも選ばれてます! オリンピック?北京に行ってます! クライマックス?3位からの勝ち方、教えましょう! メジャー?行ってませんけどダルビッシュとマー君の球は受けてます! とかね。どうです? すごいでしょ(笑)」