強力打線を盤石にしたいヤクルトが2位で指名したのは強打の高校生野手。カブレラ、ジーターに憧れ、伸びやかに育ったこの若者のユニークな個性に迫る。
今回のドラフトで最大の驚きと書くと失礼になるだろうが、2位で名前が挙がるとはまったく思っていなかった。ドラフト当日、僕は大商大にいたが、広島の1位指名を受けた岡田明丈の会見が終わり、2巡目のトップで指名を受けたチームメイト・吉持亮汰の会見準備が進んでいたときだった。手元のスマートフォンがヤクルト2位の欄に「廣岡大志」と映していたのだ。思わず順位を確認したが間違いなく2位。僕の頭には川上竜平をヤクルトが外れ1位で指名した2011年のドラフトが蘇った。ただ、冷静になると今回のヤクルトはウエーバー方式により2巡目の最後と、3巡目のトップで連続指名ができた。だから2、3位は同等の扱いとも言えるが、仮に3位であっても、僕の思っていた順位よりは高いものだった。
散々頭のなかで「2位か…」と呟いた後、次に“あの男”へショートメールを打った。昨年の智辯学園の4番で今や巨人の期待の星、岡本和真だ。宮崎のフェニックスリーグで奮闘中のはずだったがメールなら迷惑にもならないだろうと…。「廣岡2位! ビックリや…」。やはり、思わず打たずにはおれなかったのだ。
その岡本を昨年取材するなかで時折、廣岡の話題になった。岡本と廣岡は自主練習を一緒に行う仲で、岡本情報によると廣岡は大のメジャー好きということだった。なかでもお気に入りは廣岡が中学3年の時に三冠王に輝いたミゲル・カブレラ(デトロイト・タイガース)だ、と。それから約1年。まずはNPBの入り口に立った廣岡に“岡本情報”を向けてみた。
すると「メジャー好きです。夏が終わって家族とヤンキースタジアムまで行って、試合も見てきました」と乗ってきた。
「中学の頃はBS中継を録画して、学校から帰って見てました。ヤンキースのファンですが、個人的にはカブレラ。だってあのバッティング、すごいじゃないですか」
すでにメジャー通算400本塁打超えのパワーヒッターに憧れる廣岡に、自身のバッティングスタイルについて聞いてみた。
「ホームランじゃなくて、ライナーで外野の間を抜くようなバッティング。センターを意識して、この間の打球がいい感じです」
両手を立て、左中間から右中間の間を示す角度を作り、理想の打球を語った。しかし小坂将商監督は廣岡発言をアッサリ否定。
「『低い打球や!』って言わんかったら、すぐ引っ張って上げてましたから。ホントは飛ばしたいんです。だから『上げたら即交代や』って言いながらやってました」
ただ、むしろそれくらいの意欲がある選手だとわかり、逆に興味が強まった。今風のモテ男の見た目とは違い、なかなか骨っぽく、デッカイ夢を持っていそうな、面白そうなヤツに思えてきた。
ヤクルトの関係者が挨拶にきたとき「リストが強いバッティング」を褒められたという。そこで“強さ”のルーツを辿って子供の頃の話になった。残念ながらルーツには行き当たらなかったが、再び面白い話にぶつかった。ゲームは嫌いでいつも外で遊んでいたという思い出話から「木登りが好きだったんです」と言ってきたのだ。
大阪市出身で、昨年完成の地上300メートル、日本で最も高い高層ビル「あべのハルカス」のある阿倍野区育ち。そこで、平成のこの時代に、木登り!
妙な感心をしていると、近所の公園の大きな木に中学の頃まで登っていた、と…。昭和の香り満載のエピソードでまたこの男のキャラクターに触れ、さらに横道で話が弾んだ。
しかし、肝心の野球に関してはまだまだわからないことが多い。例えば守備位置ひとつ見ても、2年時はライトとサードで甲子園に出場し、昨秋からは人生初のショートに。打順も、昨年センバツは岡本の後の4番や1番、そして夏は7番で新チームからは4番…。まだタイプが定まってないということは様々な可能性を秘めているということでもある。何より自身はどういう選手になりたいと思っているのか。聞いてみると…。
「一番はファンから愛される選手。ジーターみたいな選手です」。最後にまた海の向こうのビッグネームが飛び出した。しかし、何ごとも思うところから始まるのだとすれば…。カブレラとジーターに憧れる18歳の未来がとてつもなく輝いたものに思えてきた。いつの日か、成長した廣岡を訪ね、再びその面白キャラに迫ってみたい。
(※本稿は2015年11月発売『野球太郎No.017 2015ドラフト総決算&2016大展望号』に掲載された「32選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・谷上史朗氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)