「オマエ、エグい球投げるな!」
2015年の春季キャンプ、8年ぶりに日本球界に復帰した黒田博樹が、ブルペンで投球する福井優也の豪速球を見て言った言葉だ。
メジャーリーグで幾多のワールドクラスのエースの球に接した黒田の目から見ても「エグい球」と思わせるのだから、福井の球には高いポテンシャルと、果てしないロマンを感じずにはいられない。
威力のあるストレートとキレのあるスライダーで相手をねじ伏せる福井の投球は、本格派を体現するスタイルだ。ときとして見せる圧倒的な投球を目の当たりにするとその「エグさ」が脳裏に焼きついてしまう。それほどのポテンシャルを持つ男が福井優也なのだ。
しかし、今の福井は、持っている力を発揮できずくすぶっている。
ルーキーイヤーの2011年に8勝を挙げ、未来のエース候補となるも低迷。2015年にはキャリアハイの9勝をマークして復活の兆しを見せる。ようやくスーパーエースを期待される福井が覚醒したかに思われたが、2016年から連覇を成し遂げたチームと反比例するように不調にあえいでいる。
世界を知る男が絶賛した福井の投球。こんなものではないはずだ。
福井の魅力は、前述した投球スタイルだけでなく、表情や態度から滲み出るふてぶてしさ、闘争心にもある。
2005年の高校生ドラフト4順目で巨人から指名されるが拒否。
真意のほどは語られていないが、言われるように下位での指名に不安があったのは事実だろう。また、甲子園未出場の選手より順位が低かったことも、負けず嫌いな福井には納得し難かったのかもしれない。
いずれにせよ、自分が納得できなければ、球界の盟主・巨人からの指名であっても断る強気な姿勢は闘争心溢れる福井ならではのエピソードだ。
広島のスカウト部長・苑田聡彦氏もこの闘争心を高く評価した。福井が高校卒業後に進んだ早稲田大の應武篤良監督にも、福井と同期のドラフト1位・斎藤佑樹(日本ハム)、大石達也(西武)と比べ、「性格は福井が1番プロ向き」と、言わしめるほど、そのふてぶてしく見える性格は大きな魅力と評価されている。
秘めたポテンシャルに加え、プロ向きの性格を持つ福井。その2つがいい形で融合すれば、それこそスーパーエースとなれる器があるはずなのだが……。
福井の闘争心と負けず嫌いな性格は大きな魅力。しかし、今はその性格面が覚醒を遅らせている気がしてならない。
力で押し切る投球スタイル故に、制球面に難を持つ福井の負けパターンは、四球でランナーを溜め、球を置きにいったときに痛打されてしまうのが常だ。
負けたくない気持ちが先走りする余り、早く結果を求めてしまう。こうして魅力が裏目に出てしまうのだ。近年はこの悪いパターンに陥った場面を度々目の当たりにした。
性格が裏目にでてしまう例は、他にもある、2017年8月11日の巨人戦後、自身のインスタグラムに審判の判定に不満を表すような投稿をしてしまった一件だ。
勝負どころで投じた渾身の1球をボール判定されたことが敗因となったこの1戦。投稿自体は、直接的に判定に文句を言ってはいないが、ボールと取られた投球の画像を添付していることから判定への不服を主張したと見られても仕方がない。
際どいコースだっただけに、ひと言、物申したくなる気持ちは痛いほどわかる。しかし、それをインスタグラムで発信してしまうあたりが、負けず嫌いな性格が間違った方向に進んでしまった最たる例とも言えるのではないだろうか。
案の定、その投稿は投球同様に大炎上してしまった。結果が出ていない今、持ち前の負けん気故に、ドツボに陥ることのないよう願いたい……。
先述した通り、ここ2シーズンは不調のどん底にいる福井だが、今も多くのカープファンは、福井が覚醒してスーパーエースとなる日を待っている。
2014年7月27日の阪神戦、福井が2年ぶりの勝利を完投で飾った一戦。9回マウンドへ向かう福井に向けられた万雷の福井コールが、ファンの思いの裏づけに相違ない。それだけ福井という投手は期待感がもてる存在なのだ。
今オフに福井は結婚を発表した。結婚により荒ぶるが故の不安定なメンタルが好転すれば、今度こそ覚醒した福井優也が見られるかもしれない。
福井の覚醒がなされたとき、広島はチーム史上初のリーグ3連覇を成し遂げているだろう。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)