9月も半ばとなりプロ野球もいよいよ終盤戦に突入した。セ・リーグは広島が独走態勢に入っており、優勝まで秒読みの段階。一方のパ・リーグは首位の西武をソフトバンク、日本ハムが追い上げている。西武は両チームとの直接対決を多く残しており、まだまだ混戦が続きそうだ。
ペナントレースが優勝争いへと進む終盤、徐々に注目が集まってくるのがオフの移籍市場だ。今シーズンも多くの大物選手がFA権を保有しており、その動向が注目されている。浅村栄斗(西武)もそのひとりだ。
「もし浅村が移籍したら?」という仮説のもと、浅村の移籍先候補とその球団で起こりそうな事態と、浅村の穴埋めが西武にもたらす作用を予想してみた。
(成績は9月13日現在)
今シーズンの浅村は開幕から全試合で「3番・二塁」でスタメン出場。ここまで打率.315、26本塁打、107打点の成績を残し、「山賊打線」の主軸としてチームを引っ張ってきた。打撃三部門全てにおいて4位以内につけており、2013年の打点王以来5年ぶりの打撃タイトルにも期待がかかる。
好調な打撃を見るとムラが少ないことに気づく。5月こそ打率.263だったが、その他の月はすべて3割超え(3月は4月と合算)。また、ここまで3試合連続ノーヒットは1度だけとなっており、月内でも安定した成績を残している。
そして今シーズン、劇的に伸びたのが四球数だ。現時点で61個となっており、すでに昨シーズンの44個を上回った。キャリアハイである2015年の69個を超えるペースで推移している。
このように浅村は打率が残せ、長打もあり、四球も選べる球界でもトップレベルの二塁手。しかし、世間的に二塁手といえば、3度目のトリプルスリーを目指す山田哲人(ヤクルト)の印象が強く、浅村自身が目立つことはあまりない。時代が少しズレていれば、球界ナンバーワン二塁手として君臨していただろう。
浅村がFA権を行使するとなると、どの球団も欲しいのは間違いない。しかし、今シーズンの年俸が推定2億1000万円ということもあり、複数年契約に加え、平均年俸は3億円以上が確実。3年10億円、4年16億円といった巨額の契約になりそうだ。
そうなると、資金面に対応できる球団は限られてくる。セ・リーグでは巨人、阪神、パ・リーグではソフトバンク、そしてオリックスだ。
セ・リーグの2球団を見てみると、巨人は、故障で離脱中だが今季はいい働きを見せる吉川尚輝、阪神は糸原健斗と若いレギュラー候補が揃っている。浅村を獲得するとチーム内でのコンバートなど、大移動が起こる可能性もありそうだ。
パ・リーグの2球団もソフトバンクは牧原大成、オリックスは福田周平と若い選手が二塁を守っており、同じくコンバートが起こりうるだろう。
ただ、浅村は一塁の守備もこなしており、一塁、二塁どちらかと考えれば、起用はしやすいかもしれない。
いずれにせよ、浅村の獲得でチームが強化されることは確実。資金面、そして現有戦力のコンバートなどをクリアできれば大幅な戦力アップとなりそうだ。
一方、西武は浅村が抜けるとどのような布陣となるだろうか。今シーズン、浅村以外で二塁を守っているのは外崎修汰(12試合)、水口大地(5試合)、熊代聖人(1試合)の3人。ファームを見ると水口(45試合)、呉念庭(30試合)、金子一輝(27試合)が上位3人だ。
若手有望株の金子一輝を抜擢する形もあるが、外崎を二塁で起用し、外野に鈴木将平や愛斗ら、これまた若手有望株を配置することも考えられる。もちろん大きな戦力ダウンになることは間違いないが、若手に出場機会が訪れた、と前向きに考えることも可能だ。
西武は投打ともに若手が育ちやすい土壌があり、「世代交代」は比較的スムーズにいっている。かくいう浅村も中島宏之(現オリックス)の退団後に頭角を現した。その中島も松井稼頭央がメジャー挑戦後に中心選手へと育っているのだ。
過去の事例から考えると今シーズンオフに浅村が退団することで、新たな中心選手が誕生することも十分にありそうだ。
もちろん西武は浅村を引き留めにかかるだろう。しかし、過去にも和田一浩(西武→中日)、涌井秀章(西武→ロッテ)、片岡治大(西武→巨人)、野上亮磨(西武→巨人)と多くの主力選手がチームを去った。今年、FA権を手にした浅村に対し渡辺久信SDら球団幹部はどのような対応を取るのだろうか。その動向から目が離せない。
文=勝田聡(かつた・さとし)