この両チームの対戦は、「ヤギの呪い」対「インディアンの呪い」としても注目された。カブスは1945年のWSで、ペットのヤギの悪臭を理由にスタジアムへの入場を拒否されたファンが「ヤギを入場させない限り、カブスがWSを制することはない」と言ったことから始まる“ヤギの呪い”があまりにも有名だった。実際、1945年以降はWS制覇どころか、一度もナ・リーグを勝ち上がることができなかった。
一方のインディアンズは、1948年にWSを制覇して以降、3度WSに駒を進めながらいずれも敗戦。インディアンズといえば、アメリカ先住民の選手が初めてメジャーでプレーしたことに敬意を表し、1915年にチーム名を改称。さらに、ペットマークを先住民のキャラクター「ワフー酋長」にしたのが1951年。このワフー酋長を巡っては過去に何度も抗議運動が起きており、こちらも球団に呪いがかけられた、とされている。
結果として「ヤギの呪い」が今年、解かれたわけだが、こうした文脈まで含めて味わうのも、野球ファンならではの楽しみ方といえるだろう。
では、日本ハムが制した日本シリーズでは、そのような「呪い」や「ジンクス」「法則」はあったのか? あらためて振り返ってみたい。
日本シリーズに進出した広島の緒方孝市監督と、日本ハムの栗山英樹監督は、ともに外野手出身。これまでの日本シリーズにおいて、外野手出身監督同士の対決は一度もなく、初顔合わせ、となった。
逆にいうと、これまで、「外野手出身監督同士の日本シリーズは実現しない」というジンクスがあったわけだが、今年、これを見事に打ち破ったわけだ。
「外野手出身に名監督なし」といったのは稀代の名将・野村克也氏。そんな野球格言のひとつも、今年を最後に過去のもとになった、と言ってもいいのではないだろうか。
1980年以降、20年以上リーグ優勝から遠ざかったチームが日本シリーズに進出すると必ず日本一に輝く、という法則があった。
1985年の阪神(21年ぶり)、1998年の横浜(38年ぶり)、1999年のダイエー(26年ぶり)、2005年のロッテ(31年ぶり)、2006年の日本ハム(25年ぶり)。
上記5球団はいずれも同年、日本一を達成していたわけだ。となると、今年、25年ぶりにセ・リーグを制した広島が日本一になる番と思われたが、法則発動とはならなかった。
今年を除くと、過去に6度、日本シリーズに進出している広島。そのうち、日本シリーズを制したのが1979年、1980年、1984年の3回。そのすべてにあった共通項が「チームにリーグ打点王がいた」ということ(1979・1980年:山本浩二。1984年:衣笠祥雄)。逆にいうと、リーグ打点王がいない年(1975年・1986年・1991年)はリーグ優勝できても日本一になれなかったわけだ。
そして今年、リーグ終盤まで打点王争いで1位につけていたのが“アライさん”こと新井貴浩。だが、最後の半月で筒香嘉智(DeNA)と山田哲人(ヤクルト)にまくられ、リーグ3位で終わってしまった。
日本シリーズでも今ひとつ調子が上がらなかった新井。シーズン終盤の失速が悔やまれる。
広島、日本ハムに限らず、今年も継続となった日本シリーズを巡るジンクス・法則もさらっておきたい。
まず、1992年の西武・森祇晶監督以降、チームでの日本シリーズ連覇はあっても、同一監督での日本シリーズ連覇は実現していない。20年以上続いているものは、もう立派なジンクスといっていいだろう。それだけ現代野球において、連覇が難しい、ということの証左ともいえるわけだが、来季、栗山監督はこのジンクスに挑むことになる。
また、監督にまつわる話でいえば、捕手出身監督の受難がある。過去、日本シリーズをもっとも制しているのは捕手出身監督にもかかわらず、2007年にクライマックスシリーズが導入されて以降、一度も捕手出身監督は日本シリーズにも進出できていないのだ。ロッテ・伊東勤監督はこのジンクスを破れるだろうか?
さて、「ジンクス」「法則」「呪い」から日本シリーズを振り返ってみたが、ワールドシリーズの例を見てもわかるように、「呪い・ジンクスは破るためにある」ともいえる。ぜひ、来季のプロ野球ではさまざまなジンクス破りを果たし、新たな歴史を築いてもらいたい。
文=オグマナオト