1度目の「1イニングサイクルヒット」は、2006年4月7日、敵地で13対0の大勝を収めたロッテ戦だ。イヌワシ打線は序盤に大量得点。相手の先発を早々に引きずりおろし、すでに5対0とリードした5回のことだった。
マウンド上には現在、鋭い観察眼による野球評論で定評のある小宮山悟。2回途中から登板し、試合を作り直していたベテラン右腕の4イニング目を攻略した。
打者11人を送り込み、7安打7得点の猛攻。このとき、単打を山崎武司、カツノリ(野村克則)、沖原佳典、高須洋介が、二塁打をリックが、三塁打を鉄平が、そして本塁打をフェルナンデスが記録している。
この試合で先発していたのは、当時の看板投手・一場靖弘。さらなる大量の追加点に守られた一場は9回4安打8奪三振、計6イニングを三者凡退に抑える快投。131球でプロ初完封勝利を飾った。この完封で自信をつけたのだろう。この年、一場はリーグ2位の193回2/3を投げ、創設2年目のチームの屋台骨を支える奮闘ぶりをみせている。
2度目は2013年5月28日、7対4で勝利した甲子園での阪神戦だ。この試合、開幕7連勝を続けていたエース・田中将大が6回2失点でゲームメイク。勝ち投手の権利を持ってエースの仕事を終えたのだが、リリーフ陣が逆転を許してしまう。楽天は最終回を、1点を追う立場で迎えていた。
9回1死後に、楽天は抑えの久保康友を攻略。銀次の左安打が口火を切った逆襲撃だった。続く松井稼頭央は、右翼線奥深くを襲う二塁打を放って同点。さらに代打・島内宏明が浅く守った外野の頭上を越える決勝の左中間三塁打。いずれも久保の145キロを超えるストレートを打ち砕いた。
阪神は慌てて左腕の筒井和也を火消しに向かわせた。しかし、聖澤諒が返り討ちの2ラン。1イニングサイクル安打による4得点で勝利を決定づけた。
この年、田中は24勝無敗の歴史的レコードを作った。先発27試合のチーム成績は実に26勝1敗。エースが投げる試合でチームが勝つ。この大原則を徹底できた楽天は、初のリーグ優勝へまい進。その勢いのまま日本一に輝いたことは記憶に新しい。
夢のサイクル安打。じつは今年4月2日の西武戦、岡島豪郎がこの大記録に王手をかけた。「あとはホームランを残すのみ」という状況で3度打席に立ったが、惜しくも逸機してしまった。
近い将来、楽天の個人記録でのサイクル安打達成を期待したい。
文=柴川友次(しばかわ・ゆうじ)
信州在住。郷里の英雄・真田幸村の赤備えがクリムゾンレッドに見える、楽天応援の野球ブロガー。各種記録や指標等で楽天の魅力や特徴、現在地を定点観測するブログを2009年から運営の傍ら、有料メルマガやネットメディアにも寄稿。