週刊野球太郎
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第十六回:試合前のゲームリーディング

『野球太郎』で活躍中のライター・キビタキビオ氏と久保弘毅氏が、読者のみなさんと一緒に野球の「もやもや」を解消するべく立ち上げたリアル公開野球レクチャー『野球の見方〜初歩の初歩講座』。毎回参加者のみなさんからご好評いただいております。このコーナーはこのレクチャーをもとに記事に再構成したものです。
レクチャーは予定していた全5回が終わってしまいましたが、新たな企画を思案中です。その連絡ができるまでお待ちください。


試合の全体像を知る


キビタ:今回からは試合の流れを読む、感じ取る、といった話をしたいと思います。

久保:かっこよく「ゲームリーディング」なんて言葉を使いましたが、要は試合を予測するお話です。

キビタ:試合の流れを予測するには、まずゲームの全体像を知る必要があります。【図1】をご覧ください。


【図1】ゲームの全体構造


久保:試合の前の部分がピラミッドの土台になっていますね。

キビタ:試合には必ず背景があります。どういうカテゴリーの、どういう位置づけの試合なのかを知っておくことが、試合を予測するうえでの前提になります。

久保:まずはリーグ戦なのか、トーナメントなのか。リーグ戦でも勝ち点制なのか、勝率制なのか。さらには延長のイニングはどうなのか。タイブレークで決着がつくのか等々、それぞれで戦い方も違ってきます。

キビタ:プロ野球だったら「3時間半を越したら新しいイニングに入らない」という去年までのルールがそうですね。このルールがあるかないかで、戦い方がかなり違ってきます。

久保:またレベルごとでセオリーも違ってきますから、中学の軟式から高校、大学、社会人、プロと、どのカテゴリーの試合かという違いも押さえておく必要があります。

キビタ:以前もお話したように、トップに近づくほどプレーの精度が高まるので、目に見える仕掛けや揺さぶりは減ってきます。下のカテゴリーだと、ちょっとした動きでミスが出やすいし、精神的にも同様しやすいので、積極的な仕掛けで主導権を握ろうというチームが多くなります。

久保:たとえば高校野球のトーナメントの決勝で、何としても先制点を取っておきたい状況だったら「1回表無死満塁で4番にスクイズ」といったサインも考えられます。好みの分かれる采配ではありますけど、負けられないトーナメントで、しかも4番に絶対的な打力がないのであれば、一理あるかと思います。「選手を大きく育てる」という観点からすると、どうかと思いますが…。




ゲームプランを考える


キビタ:次に大会形式を踏まえたうえで、試合開始前のチームの状況を考えます。自分のチームがどういう戦いをしてきたのか。大会に入って誰が好調なのか。逆に相手だったら誰をマークしないといけないのか。特にトーナメントや短期決戦では、好調な選手から使っていくのが鉄則になります。

久保:チーム状況を分析したら、次はゲームプランですね。ゲームプランには2つの考え方があると思います。1つは自分たちの良さを前面に出す戦い方。もう1つは相手の良さを消す戦い方。この考え方はサッカーをはじめ、多くのスポーツに共通する考え方です。

キビタ:自分たちの良さを出すというと…

久保:東海大相模高や健大高崎高に代表されるような機動力野球ですね。盗塁やエンドランをガンガン仕掛けて、自分たちのリズムを作ります。

キビタ:相手の良さを消すというのは…

久保:横浜高のバントシフトが代表的です。相手からすると「強豪の横浜高を相手に先頭打者が出塁したんだ。ここは手堅くバントで送ろう」と思っているところで、横浜高は極端なバントシフトで圧力をかけてきます。相手のやりたいことをやらせない強さです。

キビタ:選択肢のなくなった相手は、ただ打つしかありませんね。

久保:そこでゲッツーにでもなれば、流れは大きく横浜高に傾きます。


相手の良さを消していく野球で激戦区・神奈川を何度も勝ち抜く横浜高



勝ち試合のスコアをイメージする


キビタ:敵と味方を分析して、ゲームプランを考えて、最終的に指揮官は勝ち試合のイメージを作ります。試合前に監督が「何対何で勝ちたい」とコメントするのも、事前に試合を予測しているからです。

久保:チームによって、勝ち方と負け方の傾向はありますからね。たとえば大物打ちを揃えたチームは、打線が爆発すると8-0で勝ちますが、いいピッチャーに当たると完封負けしたりもします。逆に長打はないけど、守りや小技で計算できる選手が揃っていたら、2-1で勝って、0-4で負けるといった試合になります。

キビタ:打ち出したら止まらないというのは、二松学舎大附属高などが代表的ですね。春の東京大会でも東海大菅生高を相手に23-0で勝っていました。逆に東海大菅生高はロースコアに持ち込むのが伝統ですけど、今年はディフェンスがもうひとつみたいで、こういうスコアになりました。

久保:理想の勝ち試合の設定は、チームによって異なります。横浜隼人高は09年夏に甲子園に出場したあたりから5-4、6-5といったスコアで勝つチーム作りをしています。先発投手が初っ端に失点するのも、エラーが出るのも想定内。複数のピッチャーをつないで、打ち勝つ野球を目指しています。この間も慶應義塾高にいきなり5点リードされながら、中盤に6点取って逆転勝ちを収めていました。実に横浜隼人高らしい勝ち方です。

キビタ:最近は「ミスも織り込み済み」といった戦い方をする監督が増えてきました。

久保:横浜隼人高の水谷哲也監督が言うには「限られた戦力で最大限に力を発揮させるために、今のスタイルにたどり着いた」そうです。昭和の時代には、1球バントを失敗しただけで即ベンチから外れるといった、厳しいというかヒステリックな采配が主流でしたが。

キビタ:私が高校球児だった時代にも、強豪校にはそういう雰囲気が残っていましたね。

久保:選手をどこまで信用するかは、采配の根本に関わる問題でしょう。このあたりは時代とともに変わってきていると思います。

キビタ:話をまとめると、どのチームの監督もゲームプランを組み立ててから試合に臨みます。我々が球場で見るのは【図1】の上の部分。試合の場面とアクションと結果だけなのですが、水面下にはその判断に至った経緯があるのです。

久保:ピラミッドの下の部分は、何年かかけて同じチームを観察していると、少しずつ見えてきます。どんな戦い方で過去に勝っているのか。監督の得意とする駆け引きは何なのか。そのチームの成功体験は、試合の流れを予測するうえで大きなヒントになります。

キビタ:次回はピラミッドの上の部分、試合の構造について説明します。


横浜隼人高・水谷哲也監督



■プロフィール
キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事『炎のストップウオッチャー』を野球雑誌にて連載をしつつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に、多彩な分野で活躍中。Twitterアカウント@kibitakibio

久保弘毅(くぼ・ひろき)/テレビ神奈川アナウンサーとして、神奈川県内の野球を取材、中継していた。現在は野球やハンドボールを中心にライターとして活躍。ブログ「手の球日記」

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