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《プロ野球泣ける話》優勝目前で離脱したラズナー(楽天)の思い。大瀬良大地(広島)をつないだ心の糸

優勝目前で右ヒジ痛を発症し、泣く泣く帰国したラズナー(楽天)

 笑いあり感動あり。日々、我々に様々な想いを抱かせてくれるプロ野球。

 週刊野球太郎では「泣けるストーリー」にスポットを当てた『涙の数だけ野球人生がある。プロ野球 泣ける話』を連載してきた。

 最終回は、選手だけでなくスカウトやマスコットにもスポットを当てたい。

無念のラズナーが交わした言葉


 2009年から2013年にかけて、先発・中継ぎ・抑えと役割に執着せず腕を振り続けたラズナー(元楽天、現楽天国際スカウト)。

 楽天が日本一に輝いた2013年も、5月半ばから抑えに定着し17セーブ。守護神として活躍していたが、8月24日のロッテ戦で右ヒジ痛を発症し、急遽降板。翌日には1軍登録を抹消され、9月9日に母国・アメリカへ帰国して検査することとなった

 本人の落胆はもちろんだが、初のリーグ優勝を目指す楽天にとっても大きな痛手。そんななか、ラズナーは帰国前日にKスタ宮城(現Koboパーク宮城)の監督室を訪問。星野仙一監督(現楽天球団取締役副会長)にこう告げた。

「こんなエキサイティングなシーズンに、力になれなくて申し訳ない」

 この言葉に星野監督は、「ナイスガイや」と感激。思わず涙が出そうになったという。

 監督室を後にしたラズナーが楽天ナインとあいさつを交わすなか、田中将大(現ヤンキース)がラズナーに励ましの言葉を送る。

「優勝するときに戻ってこられるのなら、戻ってきてください」

 正直な気持ちを伝える田中の言葉。飾り気はなくとも、ともに楽天のマウンドを守ってきた“同志”の思いはラズナーの胸を打ち、涙を浮かべて喜んだという。

 楽天がリーグ優勝を果たしたとき、ラズナーの姿はなかったが、ともにブルペンを支えた青山浩二が背番号「17」のラズナーのユニフォームを手にベンチを飛び出した。

 間接的ではあったが、「ラズナーに帰ってきてほしい」という田中の望みは叶ったのだった。

アットホーム神宮


 ヤクルトのマスコットキャラクター・つば九郎は、愛らしい風貌に似合わぬ毒舌が人気。

 時事ネタに乗せて選手をイジるのは日常茶飯事だが、一方で仲のいい選手や監督の引退・退任に関しては、その思い出をブログに綴って涙を誘う。

 例えば、小川淳司監督(現ヤクルトシニアディレクター)のときはこう書いた。

「じゅんじさんを、どうあげし、る〜び〜かけで、ぐっしゃぐしゃに…
みやもとさんのときもそうでしたが、これもまた、かないませんでした」

 かつてのチームメイト・稲葉篤紀が日本ハムで引退を迎えたときはこのように労をねぎらった。

「あんたは、はえぬきだよ!
ちょっこす、さみしいけど、もうなっぱは、
ふぁいたーずの、ほっかいどうの〜いなばあつのりだよ」

 ストーレトな心情に思わず共感。こちらもホロリとしてしまう。

 普段おちゃらけているつば九郎だけに、余計に胸が締めつけられる。何年たって読み返してみても……、グッとくる。


大瀬良大地とスカウトの心と心のつながり


 2013年のドラフト1位で広島に入団した大瀬良大地。長崎日大のエースとして甲子園に出場。花巻東の菊池雄星(西武)と投げ合うなど、高校時代からプロの注目を集めていたが、プロ志望届を出すことなく九州共立大へ進学した。

 大学でも1年時から公式戦で登板し、実力をいかんなく発揮。そんな大瀬良に高校時代から熱視線を送っていたのが広島の田村恵スカウトだ。

 田村スカウトの期待に応えるように、大瀬良は学年が上がるごとに輝きを増した。

 しかし、活躍すればするほど、当然、他球団のスカウトも注目する。ドラフトでは広島、ヤクルト、阪神が1位指名。かくして大瀬良の運命は、くじ引きに委ねられた。

 監督がくじを引くのが、広島の通例だったが、2012年には森雄大(楽天)と増田達至(西武)、2010年には大石達也(西武)と3度外していた。

 そこで“秘策”というべきか“奥の手”というべきか、常に大瀬良を気にかけていた田村スカウトが大役に指名される。「田村でダメなら諦めもつく」という球団の思いがあったことは想像に難くない。

 こうして幕を開けた運命の抽選。阪神・和田豊監督、ヤクルト・小川監督に混ざってくじを引く田村スカウト。このとき、広島の元捕手だった田村スカウトは、「投手・大瀬良からのボールを受ける」という意味を込めて、左手を抽選箱に入れる。

 すると当たりくじは、見えないキャッチャーミットに引き寄せられるかのように田村スカウトの手に。

 抽選後のインタビューで「絶対に当たると信じて臨みました」とコメントした田村スカウト。大瀬良も、「田村スカウトに引いてもらいたいと思っていた」と心境を吐露した。

 確率は3分の1。相思相愛のバッテリーによる「赤い糸」が導いたかのような、会心のドラフトとなった。


すべての関係者で作る“筋書きのないドラマ”


 選手のほか、マスコットやスカウトが登場した今回の“泣ける”ストーリー。

 プロ野球は選手が主役だが、彼らを支える周囲にも多くの感動ドラマがあることを再確認させられた。

 これからも「泣ける話」はたくさん生まれるはず。今度はリアルタイムで見て、感動や興奮を味わってみたい。


文=森田真悟(もりた・しんご)

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