哀愁も愛嬌のうち!? 球界一“不幸”が似合う? マスコット、ドアラのひみつ
「未完の大コアラ」と言われたのも今は昔。球界でも一、二を争う人気者となったのが中日ドラゴンズのマスコット、ドアラだ。
デビューは1994年。長く不遇の時代を過ごしたが、2008年、雑誌『日経エンタテイメント』が実施した「勝手にエンタ!大賞」の「あまりにも自由過ぎるで賞」を受賞したあたりから世間でも注目を集めだした。特に、ナゴヤドームの試合で7回終了時に行う勝敗占いのバク転は、成功しても失敗しても喝采の的となっている。
昨季は20周年のメモリヤルイヤーだったこともあり、自著『ドアラの愛した硬式 きおくにございません』やドアラ研究本『誰も知らなかったドアラ学(DVD付)』などの書籍が刊行された。さらに、同じく20周年のヤクルトのマスコット・つば九郎とさまざまなコラボ企画を実施するなど、その活躍ぶりは目覚ましい。
もっとも、そんな明るい話題ばかりのドアラなんて、ちょっとつまらない。なぜなら、ドアラほど「不幸」や「哀愁」といったフレーズが似合うキャラクターはいないからだ。
2013年はチーム成績と呼応するようにバク転成功率が5割を切り(23勝26敗)、練習中には左手を骨折。これがマイナス査定となって、オフの年俸交渉では年俸代わりの食パン1キロから25%減となる750グラムでサインせざるを得なかった。
毎年の節分イベントでは、マスコットなのに鬼役をあてがわれ、プロ選手たちの豪腕豆まきの餌食になるのは恒例行事。今年は谷繁元信選手兼監督が同席した最初こそ平和だったが、監督が席を外すと投手陣たちから豆の集中砲火を浴びた。
これらの不遇に加えて、なで肩と八の字眉毛がさらに哀愁を誘う。
そもそも、球団の公式マスコットはドアラではなく、シャオロンとパオロン。ドアラはサブキャラクターという立ち位置だ。その証拠に、1999年に発行された「日本プロ野球セパ誕生50周年記念切手」で全12球団のマスコットが図案化された際、中日のマスコットで描かれたのはシャオロン。球団公式サイトの「マスコット紹介」ページでも、掲載順はシャオロン、パオロンに次ぐ3番目だ。
でも、扱いの順番などドアラにとってはどうでもいいこと。なぜなら、存在できていることが奇跡のようなことだから。
実は1997年のナゴヤドーム誕生の際、新マスコット・シャオロンのデビューに合わせて、ドアラをお役御免とする計画もあったという。ところが、ファンからの「ドアラを捨てないでー」という懇願で命拾いすることができたのだ。
さらに、ドアラの誕生秘話はもっと切ない。もともと、ドアラを発案したのは球団内部ではなく、広告代理店・大広で中日担当だった山田達夫氏がマスコットの必要性を訴えたから。ところが、球団はコスト面からこの案を却下してしまう。
しかし、山田氏はそこで諦めなかった。球団を説得するためにスポンサー集めに奔走し、コスト面の不安を払拭。今でこそドアラのユニフォームは背番号「1994」がトレードマークだが、誕生当時は背中に番号ではなく、スポンサー名が入っていたという。山田氏の情熱とアイデアがなければ、ドアラは誕生すらできなかったかもしれないのだ。
こんなバックボーンを知れば知るほど、普段の傍若無人な振る舞いも、失敗ばかりのバク転も今まで以上に笑って許せるのではないだろうか。
自著『ドアラのひみつ』で、ドアラはこう綴っている。
「みんなが応援してくれる限り、ドアラは、きっとそこにいます!」
企画却下、ライバル出現、バク転失敗、ケガ、年俸ダウン……どんな不遇にあってもドアラは決して挑戦を止めないはずだ。
◆ドアラ パーソナルデータ
所属:中日ドラゴンズ
背番号:758→000→1994(2004年〜)
デビュー年:1994年
(※ナゴヤ球場時代はホームランを打つと青いコアラのぬいぐるみが手渡されていた。このぬいぐるみの名前がドアラ。つまり、1994年はマスコットとしてのデビュー年となる)
生年月日:不明(※年齢は「アルコールはOK歳」)
身長:アジアの頂点cm
体重:圧倒的な存在感kg
尊敬する人:高田純次
その他の球団マスコット構成:シャオロン(背番号1997)、パオロン(背番号2000)
■ライター・プロフィール
オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」、「AllAbout News Dig」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。『木田優夫のプロ野球選手迷鑑』(新紀元社)では構成を、『漫画・うんちくプロ野球』(メディアファクトリー新書)では監修とコラム執筆を担当している。近著に『福島のおきて』(泰文堂)。Twitterアカウントは@oguman1977(https://twitter.com/oguman1977)
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