ルーキーの選手たちが、入寮後に行う新人合同自主トレ。球団によって内容はさまざまである。なかでも、異彩を放っていたのが、西武の「競輪トレーニング」だ。
これは本拠地・西武ドームのすぐ近くに西武園競輪場があるため、新人の体力チェックを兼ねて、バンクと呼ばれるコースを走らせるというもの。
ほとんどの選手は、このイベントでピストレーサーという競技用の自転車に初めて乗る。しかしタイムトライアルを行うと、時折、競輪選手としても通用しそうなタイムを出す選手が現れるなど、大いに盛り上がる合同自主トレなのだ。
そこで改めて、西武独特のこの「恒例行事」で、どんなことが起こっていたのか振り返ってみたい。
まず競輪トレの話題で欠かせないのが、2006年に挑戦した炭谷銀仁朗。1000メートルのタイムトライアルで、1分26秒76という記録を出したのだが、これはかつて西武に所属していた松井稼頭央(楽天)の1分28秒という記録を抜く好タイムだったことから、関係者も思わずどよめいた。
2005年に星秀和(引退)が記録した1分26秒25には及ばなかったが、「知っていたら抜けた」と強気なコメントも飛び出した。
ちなみに2007年と2011年にも競輪トレに参加した炭谷。1分25秒04、1分24秒39と、走るたびに球団記録を更新して、コメントが負け惜しみでないことを証明した。
2010年の菊池雄星は、炭谷までとはいかなかったものの、涌井秀章を超える1分29秒16の好タイムでアピール。
この記録の裏には、「自転車のサドルを盗まれ、一時期、常に立ち漕ぎを強いられたことで脚力が鍛えられていた」というエピソードが。もちろん盗みは許されることではないが、「アスリートたるもの逆境をプラスに捉えるポジティブさが必要」ということが伝わってくる。
一方で、2011年に挑戦した大石達也は1分35秒02。大卒ドラ1ながら、ルーキー6人中5位と残念な結果に終わった。
序盤は快調に見えたのだが、実は飛ばし過ぎだったようで後半失速。早稲田大時代に抑えをしていたことで、いきなりギアをトップに入れるクセが付いていたのだろうか…。
こうして見ていくと、競輪トレは選手の個性がわかる出来事が、色々と起こっている。
また選手にとっても、下半身を鍛えられる競輪トレは、野球にうってつけの練習だろう。そしてこのような新たな練習方法を知ることで、自分の可能性を広げることができるはずだ。
2011年を最後に行われていないこの競輪トレーニング。西武ライオンズの名物トレーニングとして、ぜひともまた復活することを願いたい。
文=森田真悟(もりた・しんご)
埼玉県出身。地元球団・埼玉西武ライオンズをこよなく愛するアラサーのフリーライター。現在は1歳半の息子に野球中継を見せて、日々、英才教育に勤しむ。