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第4回 『ラストイニング』『H2』『風光る』より

「球言(たまげん)」とは、名作&傑作マンガに登場する野球格言≠フことである。野球というスポーツの真理を突いた一言、技術を磨く名言、駆け引きを制する名台詞の数々は、現実のプレーや采配にも役立ったり役立たなかったりするのだ!

★球言1




 《意味》
スライダーとストレートは、人さし指と中指にかかる力の配分が違う。スライダーの直後にストレートを投げるときは、間≠取って正常な感覚を取り戻す必要がある。

《寸評》
間≠取る方法については、工夫が求められる。捕手がボールをこねる、牽制球を投げる、サインに首を振る、ロジンバッグを触るなど。相手に狙われているなと感じたら、あえてボール球を投げるという手もある。

《作品》
『ラストイニング』(中原裕、神尾龍、加藤潔/小学館)第5巻より


《解説》
新監督の鳩ヶ谷圭輔から、「スライダーでストライクが取れたら、その後、絶対に間を取れ」と教えられた彩珠学院の捕手・八潮創太。だが、彼はその理由がわからずにいた。
後日の練習試合。関東大会の優勝校・聖母学苑と対戦した彩珠学院は、1点リードで八回裏の守備に入る。 鳩ヶ谷の教え通り、スライダーの後に必ず間を取る八潮。ところが聖母学苑は、直後のストレートを狙いすましたように打ち返してくる。
逆転の二塁打を放った聖母学苑の正捕手・佐倉秀一は、連打の理由を頭の中で語っていた。
「スライダーは 腕の振りはストレートと同じだが、指の力の配分が違う。スライダーの後に間≠取るのは、その感覚を正すため(中略)そしてその間≠毎回同じように取れば、スライダーの次には必ずストレートで勝負してくると分かる」
打たれにくくするはずの間≠ェ、皮肉にも相手に球種を教えていたのだった。

★球言2



《意味》
序盤に大量リードを奪い、余裕を持ってしまうと、終盤に追いつかれそうになったとき、気持ちの切り替えがうまくいかず、チーム全体が浮き足立つことになる。

《寸評》
1点差と10点差では、好守ともに作戦が変わってくる。特に大量リードする側の守備は、おのずと「1点ならオーケー」というものになりがち。結果、徐々に点差が詰まり、終盤に入る頃には僅差のゲームになっている、という展開もよく起こる。

《作品》
『H2』(あだち充/小学館)第28巻より


《解説》
甲子園の選抜大会決勝戦。豪腕・国見比呂を擁する千川高は、一回表に大量5点のリードを奪う。 一方、追いかける浜光高校は一回裏、二回裏、四回裏と小刻みに1点ずつを獲得。ワンサイドゲームかと思われた試合は、ジワジワと接戦へともつれ込んでいく。
その様子をスタンドで見ていた産報スポーツの新聞記者・雨宮高明は、初回の得点が千川高のリズムを微妙に狂わせていると指摘。
「思わぬ大量点でわずかに乱れた集中力……ふだんなら表に現れないプレーも、全国大会、それも優勝を狙えるチーム相手ではかんたんに失点につながる」
攻撃にも精彩を欠く千川高。雨宮の分析は続く。
「一度ゆるんだ緊張感が、再び戻ってくる時には、あせりも一緒に連れてくる」
五回裏にも1点を加えた浜光高。試合は、ついに5対4の1点差となり、緊迫の終盤戦を迎えるのだった。

★球言3




《意味》
常識的に考えれば、投手が放ったボールよりも先に、三塁走者が本塁へ到達することはあり得ない。ホームスチールが成功する背景には、必ず投手側の油断が存在している。

《寸評》
二塁への盗塁がセーフになるためにかけられる時間が約3.2秒なのに対し、ホームスチールがセーフになるためには、理論上、わずか1.2秒しか許されていないという(※5)。いくらリードを取るとはいえ、大きなモーションやワイルドピッチなど、投手のミスがなければ、この短時間で塁間27.43メートルを走り切ることは不可能だろう。
※5・『図解雑学 野球の科学』(筒井大助/ナツメ社)より

《作品》
『風光る』(七三太朗、川三番地/講談社)第23巻より


《解説》
野中ゆたかは、有名選手のモノマネをして戦うという奇抜なプレーヤー。彼をエース&四番に据えた多摩川高は、夏の地区予選五回戦で第一シードの京浜高と対戦する。
1対1の同点で迎えた八回裏。無死一、三塁とした多摩川高は、六番の佐々井がレフトへ飛球を放つ。しかし、これは京浜高のワナだった。犠牲フライに見せかけ、三塁ランナーをおびき出し、本塁で仕留める。個々の能力に長けた京浜高だからこそ可能な作戦だった。
三塁ランナーの野中は、この思惑を読み切り、タッチアップを回避。ワンプレーで2つのアウトを取るという京浜高の計算を崩すことに成功する。
続く七番・柳の打席。野中は初球ホームスチールを敢行する。予想外のプレーに、コントロールを乱してしまう京浜高のエース・島。逆転を許したマウンド上で、彼は苛立ちながら呟いた。
「すべてが投手(※6)の心のスキから生まれる それがホームスチール!!」



文=ツクイヨシヒサ/野球マンガ評論家。1975年生まれ。著書に『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。

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