4連覇を目指した2019年シーズンは、残念ながら4位で終えた広島。優勝時のメンバーも次々とチームを去り変革が進む中、広島は再び暗黒期に戻るのか? はたまた新たな“カープの顔”となる選手が育ち、さらなる繁栄をみせるのか? カープファンの筆者独自の視点から、4つの項目に分けて考察してみたい。
2020シーズンの広島にとって、最大の変化は監督が変わったことだ。
Bクラスに沈んだチームの再建を託されたのは佐々岡真司新監督。就任からまだ数カ月だが、主力選手のFA流出を阻止するなど早くも手腕を発揮した。また、佐々岡監督が掲げる「一体感」を体現するように、秋季キャンプでは和やかなムードが漂う中でチームの結束を深めるなど、早くも自身のカラーでカープ再建に動き出している。
その佐々岡監督、1967年の長谷川良平監督以来ほぼ半世紀ぶり広島史上3人目(1975年の野崎泰一監督代行を除く)の投手出身監督という点も興味深い。
2軍コーチ時代から、有望な若手を育て上げた実績があり、育成手腕には定評がある。ただ育成だけでなく、投手出身監督ならでは起用法など、これまでと違った采配はあるのか? そのあたりは大注目だ。
しかし、少し嫌なデータもある。過去20年の歴代監督初年度はすべてBクラスなのだ。20年前は暗黒期の真っ只中ということもあったが、優勝の機運が高まった2015年も4位に甘んじただけに、このデータは実に不吉である。
2019年シーズンは4位に転落し、絶頂期からは下降線にある広島。佐々岡新監督の采配で嫌なジンクスを打破できるのか? 見どころだ。
昨シーズン、4位に沈んだ原因はズバリ、クローザー不在にあると考える。
救援防御率3.63はリーグ3位。まずまずの数字ながらセーブ数はわずか23と、12球団ワーストだ。これは3連覇を支えたクローザー・中崎翔太の不振とケガによる離脱が大きく響いた形だ。代役を務めたフランスアも安定感を欠き、シーズンを通してクローザーを固定できなかった。その代償が32試合にも及んだ逆転負けの元凶だろう。
そのため、今シーズンは新たなクローザー探しが急務と言える。そんな状況下でロッキーズからD.J.ジョンソンを獲得。平均150キロを超えるストレート(ツーシーム)と鋭いカーブが武器のこの右腕が、新クローザーの有力候補と見られている。
しかし、クローザー候補として筆者が注目するのは、2020年にプロ2年目を迎える島内颯太郎だ。昨シーズンはルーキーながら25試合に登板し、リリーフの経験を積んだ。最速152キロの快速右腕が昨シーズンの経験を糧にクローザーとして開化する――そんな期待をせずにはいられない。というのも、島内が記録した成績がクローザー適性に溢れているからだ。
昨シーズンの島内は25試合の登板で、防御率は4.40。成績は実に平凡だ。しかし、28回2/3で33個も奪った三振が目に留まる。三振を取る力に長けていることは、クローザーとして大きなアドバンテージ。しかも、33個の三振のうち24個をストレートで奪っている点にも注目したい。空振りを取れる威力のあるストレートがあるのは、抑えとして非常に魅力的である。
また、被打率は.192と低く、特に決め球のフォークは被打率.000。強力な決め球があることもまた、クローザー向きであることを強く感じる。
一方、気がかりな点は制球力だ。28回2/3で19四球はかなり厳しい。制球力改善は今後の課題だろう。しかし、荒れ球が被打率を下げている側面もある。また、学生時代に制球を意識しすぎて球威を落とした過去もあるだけに、制球力よりもストレートに磨きをかける方が、実力を発揮しそうだ。
島内だけでなく、ケムナ誠、塹江敦哉といったパワーピッチャーも新戦力として控えている。彼らが台頭すればリーグ屈指のリリーフ陣ができあがる可能性も秘めている!?
本稿執筆時点で去就が決まっていないバティスタは、ここでは「いない」前提で話を進めたい。
外国人選手の起用法もシーズンの行方を左右することが予測される。その中で注目は、新外国人選手のピレラだ。内外野を守れるユーティリティー性に加え、パドレス時代の2017年には2ケタ本塁打を放つなど一発の魅力もある。
仮に、メジャー挑戦を表明している菊池涼介の移籍が決定した場合は、二塁手の経験もあるピレラが、その代役に回る可能性が高い。それだけに、ピレラの出来がチーム浮沈のカギを握るといっても過言ではないだろう。
現状、左腕エースのジョンソンは1軍に必要不可欠。それに加えリリーフを補うならば、フランスア、新外国人のD.J.ジョンソン、スコットのいずれか2人を起用する可能性が高い。野手はピレラで、投手3人野手1人の起用法が基本線になることが予想される。
しかし筆者は、あえて“生え抜き”のスラッガー・メヒアに期待したい。2軍では圧倒的な数字を残し、ツボにはまったときの長打は誰もが認めている。それだけに本来の力を発揮できれば、タイトルだって夢ではない。長打はチームを勢いづかせる。また、明るい性格はムードメーカーの役割としても非常に心強い。
若手リリーフ陣が台頭してくれば、外国人選手は投手2人、野手2人という布陣も組める。そうなれば攻撃力が増し、チーム力は大きく向上するはずだ。
今、カープファン最大の関心事は、メジャー挑戦を表明した菊池の去就だろう。本稿執筆時点では移籍先は未定。残留の可能性も残しているが、ここでは移籍を前提に話を進めたい。
代えがきかない存在まで登り詰めた菊池の代役は誰が相応しいのか? 選択肢は複数あるが、先述のとおり、二塁手としての経験がある新外国人のピレラが代役の一番手である可能性が高い。
ただ、ピレラの活躍も必要だが、若手野手の奮起にこそ期したい。特に昨シーズン、高卒ルーキーながら遊撃手として58試合に出場した小園海斗にかかる期待は大きい。本来ならば遊撃手としての成長、活躍が望ましいが、遊撃には田中広輔がいる。昨シーズンはケガで大不振に陥ったが、8月に行った膝の手術の経過は良好で、すでに練習を再開している。実績十分の選手だけに、体調が万全となれば遊撃の定位置奪還が有力視される。
小園もフェニックス・リーグでは二塁でも出場している。これを見ると、二塁での出場に意欲的なことがうかがえる。遊撃手争いだけでなく、二塁手争いにも参戦することも大いに考えられる。田中、ピレラとのトライアングルでの定位置争いで、さらなる飛躍を遂げるはずだ。
広島には主力の移籍とともに新スターが台頭してきた歴史がある。「菊池が移籍しても小園がいる」。そう思わせてくれる活躍を大いに期待したい。
仮に菊池、バティスタが退団となれば、戦力ダウンは否めない。このまま低迷することもあるだろう。しかし、充実した先発投手に加え、先述した4つの注目点がうまく回れば、地力を持つ広島の優勝は十分にあり得る。
暗黒期の再来か? はたまたさらなる黄金期の到来か? いずれにせよ、2020年のカープは間違いなく面白い!
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)