今秋のドラフトにおいて注目を集めている高校生野手の藤原恭大(大阪桐蔭高)。2年時から1学年上の清宮幸太郎(現日本ハム)や安田尚憲(現ロッテ)とともに日本代表に名を連ねており、早くから話題に上っていた存在だ。最高学年となった今年も春夏の甲子園で活躍し、連覇に大きく貢献した。
藤原の強みには、走攻守に優れた万能型の選手ということ。万能型の選手にとって最高峰の栄誉とも言えるトリプルスリーを目標にしているところからも、それはよくわかる。
特に高校生の万能型選手は得てして全てのポイントが平均的な能力に収まり、器用貧乏で特徴のない選手になってしまうケースがあるが、藤原は打力、走力、守備力とどれをとっても一級品だ。
甲子園4大会で5本塁打を放ち、高校通算32本塁打のパワーを誇る。この甲子園通算5本塁打というのは、左打者としては大阪桐蔭高の先輩、森友哉(現西武)と並び歴代トップタイ。そして走っては50メートル走で6秒を切るスピード、守ってはここぞで発揮するレーザービームと、まさに超高校級の選手であることに疑いはない。
球団によって補強ポイント、年齢分布は異なっているため、全球団が藤原を指名することはもちろんあり得ない。しかし、そういった縛りがなければ声を揃えて「藤原をほしい」というはずだ。
藤原は10月4日にプロ志望届を提出した。ほかの選手との兼ね合いはあるが、ドラフト1位で指名されることが濃厚。「金の卵」として獲得した球団は大事に育てていくはずだ。
起用方針は球団によって異なるが、左投げということもありポジションは一塁、外野に限られてくる。恐らく、高校時代と同じく中堅としてプロ野球人生をスタートさせるはずだ。
藤原の完成形は昨シーズンのセ・リーグMVPでもあり、今シーズンも最右翼となっている丸佳浩(広島)だろうか。2007年の高校生ドラフト3巡目で入団した丸は、ドラフト前に藤原ほど騒がれる存在ではなかった。しかし、4年目に定位置を確保するとそこから順調に成長。今シーズンは本塁打数も39本と大きく伸ばし、本塁打王争いにも加わっている。
また、秋山翔吾(西武)のような、「安打製造機」という未来もありえそうだ。チーム状況によってリードオフマンにもなり、3番としてポイントゲッターもこなす。まさに万能型の最高峰と言ってもいいだろう。
丸も秋山も球界を代表する打者。どちらの未来になったとしても獲得球団は大成功といえそうだ。
一方で「左投左打の外野手」という部分が指名を鈍らせる可能性もある。前述のように左投げは外野、一塁と守備位置が限られてくるからだ。それに加え、スラッガータイプではない左打ちの外野手は球界に多く存在する。そのため代替が効きやすいのだ。
ドラフト1位ないしは上位指名の枠を使って、「高卒・左投左打・外野手」を指名するかは判断が分かれるところだろう。それはドラフトの歴史を見てもよくわかる。分離ドラフトが終わった2008年以降、初回入札された高卒の外野手はひとりもいないのだ。
さらに遡ってみる。分離ドラフトでは2007年に中田翔(現日本ハム)が競合となったが、中田をのぞくと1998年の田中一徳(元横浜)以来、19年間、「高卒・外野手」は初回入札されていないのだ。
藤原が逸材であることは間違いないが、ここ20年ほど指名のない「高卒・外野手」に初回入札はあるのだろうか。その結果が判明するのはドラフト当日。藤原が新たなドラフトの歴史を作るかもしれない。
文=勝田聡(かつた・さとし)