横浜商科大時代から自分を高めてきた岩貞祐太! トラのドラ1左腕が大ブレイクした3つの理由とは?
★3年目の大ブレイク
今季から先発ローテーションに入り、驚異的な数字を残している岩貞祐太(阪神)。3年目にしてドラフト1位らしい働きを見せるようになった。5月17日正午時点で7試合に先発し、45回1/3を投げて3勝2敗。直近の登板となった14日のDeNA戦で悪化させたものの、防御率1.19は十分な成績。その試合前は防御率0.65だった。そして、奪三振58という数字もひときわ光る。
左投げで、ストレートに力があって、三振が奪える
先発左腕のひとつの理想形とも言える姿に成長した。少々時間がかかったとはいえ、順調な成長曲線を描いている。大学時代を知る者としては「俺はあいつを知ってるぜっ!!」と叫びたくなるような活躍ぶりだ。
★ベストのフォームを探し求めた大学時代
岩貞が横浜商科大でブレイクしたのは2年生の時だった。鋭い腕の振りからのクロスファイヤーとスライダーを武器に、2年春には5勝をあげ、横浜商科大の大学選手権進出の原動力となった。当時の岩貞の腕の振りを対戦相手の監督はこう評していた。
「あれだけ腕を振って、よく故障しないよね。怖いくらいの腕の振りだよ」
大学2年の頃の岩貞は、投げ終えた後に胸をすぼめて、左腕の勢いを吸収していた。フィニッシュの写真を見ると、両肩がくっつくくらいに寄って、みぞおちの力が抜けている。思い切り腕を走らせた後の脱力が、切れ味の秘訣だった。
ところが大学3年でフォームを見失い、頭打ちになる。球速は出ても138キロ程度。速い球を投げようとすればするほど胸が硬くなり、ボールが走らない。横浜商科大の佐々木正雄監督がありとあらゆる手立てを講じても、一向によくなる気配はなかった。
そんな苦難の時を経て、岩貞は大学4年で自分の技をつかんだ。球速も常時140キロ中盤が出るようになったし、カットボールをストレートと同じくらいに操れるようになった。フォームは2年前とは異なり、左肩と右肩を入れ替えるオーソドックスなスタイルに落ち着いた。2年時のフォームの方が特異性があって面白かったものの、横浜商科大の井樋秀則助監督は「岩貞が試行錯誤した末の結論。以前よりもレベルアップしていますよ」と、岩貞の成長を温かく見守っていた。
★課題をすべてクリアしての大活躍
紆余曲折ありながらも、4年生で名実ともに大学トップクラスの左腕になった。とはいえ、プロで活躍できるかとなると心配な点が3つあった。
1つ目は自分の投球フォームを崩さないこと。岩貞は繊細なタイプであるがゆえに、考え込んでしまう。実際、よくも悪くも図太い、大学の同期・西宮悠介(楽天)の方がプロ1年目は結果を残している。プロ入り後も佐々木監督から「お前は評論家じゃないんだから」とのお小言をもらったりもしていた。自分の快適なフォームを忘れて、迷い道に踏み込む危険性が心配だった。
2つ目はしなやかさを失わずにパワーアップできるか。岩貞は大学時代、「一番自信がある」と言っていた右打者へのクロスファイヤーを、たまに捉えられていた。威力という点では即1軍レベルではなく、パワーアップが必要だった。それでもプロでパワーアップを試みて、本来の長所である腕の振りを失う投手は意外と多い。ドラフト当時は「腕の振りを買われて指名されたんだろうな」という投手が、数年後には体だけ大きくなって球速は落ちていたなんてことは、よくある話。最大の長所であるしなやかさを失わずに、プロ仕様のエンジンに仕上げられるか、気になるところだった。
3つ目はチェンジアップの精度。大学時代から岩貞の憧れは阪神の大先輩・能見篤史だった。何度も動画を見て研究しただけあって、立ち居振る舞いから能見に似ている。マスコミは早々に「能見二世」ともてはやしていたが、岩貞には能見のようなフォークはない。チェンジアップがあるといっても、スライダー、カットボールと対になるほどの威力はなかった。“フォークのない能見”って、どうなんだろう? 能見のフォークのような決め球がなければ、1軍では厳しいのでは? だから「岩貞は即戦力」とは言い切れない不安があった。
今年に入って岩貞の投球を見ていると、3つの課題がことごとくクリアされている。
フォームは基本的に大学4年時の形で変わらず、鋭い腕の振りを保ったまま、スケールアップ。見違えるほど体が大きくなっただけでなく、ストレートの威力も増した。クロスファイヤーと対になるチェンジアップも完全にものにしている。活躍するべくして活躍しているんだな、と感じさせる成長ぶりである。
大学時代の恩師・佐々木監督が以前にこんなことを言っていた。
「岩貞は繊細で、時として『ぶれる』ところがあるけど、『ぶれる』というのは自分を高めようとしているから、とも言えるんだよね。岩貞には自分で自分を伸ばす力があるんだよ」
文=久保弘毅(くぼ・ひろき)
1971年生まれ、奈良県出身。元アナウンサーという異色の経歴を持つスポーツライター。神奈川の大学野球と社会人野球が得意分野で、特に神奈川大学野球リーグの観戦歴は会社員時代も含めて約20年になる。社会人野球の応援方法にも興味あり。珍しい応援歌を現地で録音するのが楽しみ。ハンドボールライターの第一人者でもある。ブログ「手の球日記(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/handjpn/)」
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