広島ファンの脳裏には、いまだに鮮明に記憶されているホームランがある。それは2012年4月24日、3年目の堂林翔太が放った甲子園のバックスクリーンに飛び込む特大ホームランだ。当時の背番号13はヤンキースのレジェンド、アレックス・ロドリゲスと同じ番号。このホームランは、背番号にかけられた願いどおり“和製Aロッド誕生”の幕開けとなるはずだった……。
あの日から8年、堂林は崖っぷちに立たされている。
プロ初ホームランを放った2012年をピークに年々活躍の場を失い、昨シーズンはついに1軍昇格後、最も少ない26試合の出場にとどまるほどに。そればかりかその出場のほとんどが、スタメンではなく代走、守備固めとなっている。その結果、持ち味の長打を発揮することなく本塁打は2年続けて0本となってしまった。
ファンが求める堂林の姿は代走や守備固めではない。豪快な長打をかっ飛ばす姿を求めているのだ。
過去5年での出場試合はわずか215試合。放った本塁打はわずか3本。キャリアの危機とも言える状況だ。
それでもなお「君はこんなものじゃない!」とエールを送りたくなるのは、やはり堂林という選手が魅力的であり、3年目に見せた活躍のインパクトが絶大だったからだろう。
そこに加え、アイドル顔負けの端正な顔立ちから抜群の女性人気を誇っている。プロ野球選手にとってこの人気は大きなアドバンテージだ。ゲームを盛り上げる意味でも、その存在感は非常に大きい。
長距離砲のロマンと大きな“会場人気”。あらためて堂林が逸材であると認めないわけにはいかない。
近年、打席に立つチャンスが少なくなった堂林だが、それでも一度バッターボックスに立てば女性を中心に大歓声がこだまする。しかし、最近は黄色い声援の中に明らかに野太い男性の声援が目立つようになってきた。そう感じるのは筆者だけだろうか?
以前は、女性人気の高さへのジェラシー(?)からか、与えられたチャンスに結果を出せない苛立ちからか、特に男性のアンチファンも多くいたが、ここにきて男性ファンが急増している気がしてならないのだ。
というのも、近年の堂林は、常に現状を変えようと様々なトレーニング行ってきた。結果の出ない現状に苦しみながら、貪欲に、不器用に何かをつかもうともがく堂林の姿に、同じように社会のなかもがく自分自身の姿を重ねて見ている中堅サラリーマンからの人気が上がってきているのではないかと推測する。
今年で11年目の堂林。皆、社会に出て10年を過ぎると、それまでは若さで許されていたことがなくなり、上からは結果を求められ、下からの突き上げに苦悩する。そんな日々の中で、もがく堂林の姿がなんとも感情移入しやすくさせるのだ。
堂林は内野での出場機会が限られてくると、外野の守備を鍛えた。2015年に新井貴浩が広島に復帰すると2016年オフに弟子入り。新井そっくりの打撃フォームに変更した。精神面を鍛えるために新井の護摩行にも同行。この精神修行は続き、今年で4年目となる。
それでも思うような結果がついてこない。心ないファンから「自分を見失っての迷走だ」と揶揄されることは、1度や2度ではなかった。
しかし、年を追うごとに大きく、力強くなる体はハードな練習を重ねてきた裏付けにほかならない。何かをつかむために必死で流した汗は裏切ることはないだろう。
筆者はそんな汗が昨年9月12日の中日戦で放ったサヨナラヒットにつながったと確信している。
今シーズンは、正真正銘のラストチャンスといえる大切な1年となる。オフの自主トレではプライドをかなぐり捨て、後輩の鈴木誠也に指導を仰ぎ、再び打撃フォームを変えた。左足を高く上げ、軸足に体重を乗せることで頭が前に突っ込んでしまう悪癖を修正した。オープン戦はここまで打率.400と絶好調。新しい打撃フォームも板についてきたようだ。
ケガで出遅れていた松山竜平の復帰で一塁手争いはさらに激化したが、外野も視野に入れつつレギュラーの座を狙っている。守備力と走力のある堂林は、多方面で戦力になる。
天性の華やかさに加え、近年の苦しみの中で得たユーティリティー性が華開く時がついにくるか!? 今年こそ“こんなものじゃない堂林翔太”の活躍を期待せずにはいられない。和製Aロッドの爆誕を願う!
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)