前回、「ドラ1の称号を手に」
先発投手陣のさらなる整備を計るDeNAが東都大学リーグの常勝・亜細亜大のエースを外れ1位で獲得。日米大学野球で最優秀投手に選ばれた逸材は、亜細亜大学でエースの責任感とプライドを身につけたという。
先輩の背中を追い、追い越せと走り続けてきた3年間。順調に日々を重ねてきたが、最後に壁にぶち当たった。それでも乗り越え、つかんだ日本一。
今度は自分が一番上に立ち、後輩を引っ張っていく立場になる。まず春のキャンプで山崎が立てた目標は「孤独になってやる」ということだった。
「ピッチャーなのでマウンドに立ったら一人です。練習に取り組む時も一人でやるという気持ちを、エースとしても強く持たないといけないし、投手陣全体で掲げていた目標でもあるんです。キャンプ中にそれだけは忘れないようにしていました」
自らがそうしてもらっていたように、後輩の手本にならなくてはいけないことも心得ていた。
「最上級生として見せなきゃいけない背中というのがあると思うんです。見ている世界も昔と比べたらまったく変わっています。でも、やるべきことは変わっていないので、その中で後輩を育てながら次につながるようにというのが僕の頭にはあるんです」
東浜や九里だけではない。正捕手だった嶺井博希(DeNA)も卒業し、バッテリーを含めて経験を最も踏んでいたのは山崎。「嶺井さんをずっと追っていた時期もある」と振り返るほどの存在がいなくなり、その責任と向き合った。
今秋の開幕戦。先発した山崎は8回途中5失点で降板し敗戦投手になった。試合後の新聞には「10キロ減量」という旨の記事が出た。だが山崎はこれを否定する。
「メディアでは84キロから74キロになってたと思うんですけど、そんなに減らしていなくて(笑)。5キロくらい減らしました」
減量には2つの意味合いがあった。一つはシーズン前の夏のキャンプ。練習メニューに走り込みがあったため、そこで負担がかからないように減らしたという。
もう一つは自分のスタイルを探すためだった。本人の言葉を借りれば、春に「どっしりとした体」で成績を残した。だが自分のスタイルというものがまだわかっていない部分もあると考えたのだ。
「模索中というか、そういう段階なんです。だから、この秋にもう1回絞ろうと。『やせなきゃいけない』とかそういう意味ではなくて。戦っていく中で何か得るものがあればという意味合いでした」
事実、あるバッターは、3年秋の山崎を見て体の大きさに驚いたという。山崎自身、当時は一番重い86キロになっていた。
東浜が卒業したため先発を任されるようになったのだが、長いイニングを投げることの難しさを痛感。そこで「車でいえば体はエンジン」と考え、大きくあった方がいいとして体作りに取り組んだ。
だがその反面、少なからず代償もあった。やはり体が重すぎるために動きも鈍くなり、山崎の場合はインステップするために腰がうまく切れない時期もあった。
山崎が何度か繰り返した「模索中」という言葉。ベストを追求しながらも結果を残さないといけない立場に彼は置かれていた。だから最終学年で見せた変化球主体のピッチングに物足りなさを感じる声が多いと訊いた時も「どうなんですかね」と、返ってきたのはやんわりと否定にも取れる疑問形。
「先発完投するためには緩急も必要になってくると思います。1、2年生の頃と国際大会はストレート主体の投球だったので、それと比べるとストレートは少ないですし、結果が出ていないと、周りから不調だとか、物足りないとか、そういう風に見られると思うんです。それが今の形なので素直に受け止めることが必要です。でも、もっともっとできるという部分では向上心を持って伸ばせると思う。ベストに程遠くても勝てることが強みになりますし、勝つことで学んだり、感じることがあるので、そういう意味ではもっとうまくなれると思っています」
まだまだこんなものではないという物足りなさと、自信が感じ取れた一場面だった。
大学最後の登板は10月10日。最終的にリーグ優勝に輝いた駒澤大との試合に敗れ、リーグ7連覇の可能性が消滅した日だった。
最終カードの初戦、マウンドに山崎が上がることはなく敗戦。翌日の試合はスタンドからメガホンを片手に声援を送っていた。奇しくもこの日はドラフト会議当日。この試合も敗れ、山崎の大学野球生活は幕を閉じた。
この試合が終わったのは16時20分。会議は17時から始まったために山崎が指名を知ったのは大学へ向かう車中。仲間とともにテレビを見てその瞬間を迎えた。
「ずっとドキドキしていましたが、ホッとしました。『どこになるんだろう』という心配な気持ちが沸いてきて、味わったことのない緊張感でした。親のすねをかじってやりたい野球を大学までやらせてもらったので感謝しています。活躍して恩返ししたいです。長い野球人生を歩むにあたって、目標はプロ入りではなく、入ってから活躍すること。即戦力として指名されたのでそれに応えられるよう、目標は高く、新人王を獲れるようにしたいです」
囲み取材では現在の心境から球団、監督のイメージ、母親への感謝の言葉や今後の目標まで幅広く投げかけられた質問に、笑顔で答えてくれた。
マウンドに立つ喜び、野球ができる喜びをわかっている山崎なら、環境がどう移り変わろうと“自分"を通してくれると確信している。
(※本稿は2015年11月発売『野球太郎No.013 2014ドラフト総決算&2015大展望号』に掲載された「32選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・山田沙希子氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)