戦国時代の戦上手・武田信玄が、孫子の兵法書から旗指物に用いた「風林火山」。その教えに例えるなら、今季の梨田楽天は「動かざること山の如し」といえそうだ。チーム再建へ、「山」であることがいかに重要か、過去2年間を思い出すと痛感する。
“過去2年間”は非常時だった。2014年は星野仙一監督が国の指定する難病にかかり、約2カ月の病気療養。短期間ながら、監督代行は佐藤義則投手コーチから大久保博元2軍監督へと代わるなど迷走した。
大久保監督が就任し、一致団結で仕切り直した2015年は「Smart & Spirit 2015 一致団結」のスローガンとは裏腹に、田代富雄打撃コーチのシーズン途中での退団などもあり、チームは瓦解した。
今季の梨田楽天は過去2年にはない「落ち着き」を取り戻した。梨田監督は開幕から泰然自若だった。オーダーがそれをよく表している。
昨季は開幕戦で中軸に座った新外国人が開幕2戦目にスタメンから外れ、4番には、実に7人を起用するなど最後まで陣容が定まらなかった。しかし、今年は猫の目打線と決別。選手個々の好不調による変更はあれど、開幕から打順をほぼ固定した。この傾向はシーズン通して不変だった。
チームが4月10日までリーグ1位に立つことができた背景には、この期間、デーゲームとホームゲームが多く、チーム全体、選手個々がコンディションを整えやすかったことも挙げられる。さらに打順を固定したことで選手に役割意識を持たせ、試合に臨むルーティンが明確化になったことも大きかったはずだ。
「動かざること山の如し」が基本線の梨田楽天。しかし、要所では「エッ!」と驚かされる大胆な采配を振るったことも印象的だ。
9連敗の窮地に立たされた5月下旬以降、開幕から遊撃のスタメンで起用した茂木栄五郎に加え、オコエ瑠偉、吉持亮汰、足立祐一ら新人を積極起用。ルーキーがもたらす新風でチームの雰囲気をガラリと変えた。交流戦の勝ち越しは、その成果だ。
後半戦は、外国人打者3人を同時にスタメンに並べた試合が37を数えるなど、助っ人に競争意識を植えつけた。結果、チーム本塁打は102本。楽天のホームランが3ケタに達したのは、実に2009年以来のことだ。
3年連続Bクラスだもの。もちろん、依然として課題は山積だ。
しかし、梨田監督1年目の今季は、きたる2年目以降のAクラス入りへ向けて最低限のファイティングポーズを取り、スタートラインに立つことができる状況にまでチームを立て直した。
名将の手腕が真に問われるのは、来季からになるはずだ。
文=柴川友次(しばかわ・ゆうじ)
信州在住。郷里の英雄・真田幸村の赤備えがクリムゾンレッドに見える、楽天応援の野球ブロガー。各種記録や指標等で楽天の魅力や特徴、現在地を定点観測するブログを2009年から運営の傍ら、有料メルマガやネットメディアにも寄稿。