聖澤にとって今季は、さまざまな人に教えを請い、刺激を受けた1年になった。1月には國學院大を訪れた。力強い打撃を取り戻すため、母校を訪れて原点回帰。同大野球部総監督の恩師・竹田利秋氏のアドバイスを受け、2016年シーズンに備えた。
4月、聖澤は「バット投げ出し打法」を初披露する。
FAで入団した今江敏晃(来年から今江年晶に改名)の得意技を取り入れた。相手投手の低め誘い球。これまでなら空振りしてもおかしくなかったが、バットを投げ出すこともいとわず泥臭く当てていく。追い込まれても、しぶとく粘る。この意識が研ぎ澄まされ、過去3年間20%を超え、昨季は24%だった三振の割合は、今季は18%まで削減した。
6月は後藤光尊に大変身。広島戦でみせた一撃は、「直前に、ベテランにインスパイアされた」と本人がお立ち台で種明かしする決勝打になった。
1点を追う8回、相手投手はヘーゲンズ。左打者の内角へカッターを投げこむ強敵だ。どう攻略するのか。ネクストバッターズサークルで思考を巡らす聖澤。その視線の先には、変化球打ちに長けた後藤の姿があった。
ベテランが内角のカッターを引っ張り、一、二塁間を破る同点打を放つ。これで思考が固まった聖澤も同じく引っ張りで対応、チームを勝利に導いた。
7月は「小ペレス打法」で躍動した。
左打ちの新外国人・ペレスのフォームは、引いた右足が今にも打席からはみださんばかりの極端すぎるオープンスタンスだ。その破天荒な打法を模倣し、7月29日のロッテ戦では3安打、3打点の活躍。終盤8回まで0対0のスコアレスが続くなか、益田直也の150キロを弾き返す2点決勝打を放っている。
積み重ねた実績にこだわらず、周囲のさまざまな長所を編集して摂取。PDCA(※)を繰り返した聖澤に野球の神様が降りてくる、そんなシーンがあった。
シーズン終盤のオリックス戦だ。通算対戦成績57打数8安打。自らもチームも苦手にしてきた天敵・金子千尋との対決である。同じ信州人対決を制し、金子をKOに追い込んだ2点タイムリーは、「聖澤諒健在」を内外に示す一打になっている。
オフには国内FA権を封印した。2度目の日本一を目指し、仙台残留を決意。筆者は聖澤と同じ信州の楽天ファンとして、今後もその活躍を見守っていきたい。
※PDCA=「Plan(計画)」」「Do(実行)」「Check(評価)」「Action(改善)」を繰り返し、物事を継続的に改善していくこと。
文=柴川友次
NHK大河「真田丸」で盛り上がった信州上田在住。真田幸村の赤備えがクリムゾンレッドに見える楽天応援の野球ブロガー。各種記録や指標等で楽天の魅力や特徴を定点観測するブログや有料メルマガ、noteを運営の傍ら、ネットメディアにも寄稿。