加藤良三コミッショナーが、突然の辞任を発表した。
統一球問題をはじめとした様々な責任の所在、コミッショナーのガバナンスの無さなど、検証すべき問題点は多いが、それらは全て「過去」の話。これからいよいよクライマックスシリーズが始まり、日本シリーズに向かっていく中で、こんな球界のゴタゴタは野球ファンを失望させるばかりだ。早々に次期コミッショナーを決め、新しい球界像を目指すという「未来」の話をすべきだろう。
では、誰がいいのか?
巷では「王貞治待望論」の声が大きい一方で、経営者サイドからは「ビジネスに精通した人選を!」といった声も聞こえてくる。そこでこのコーナーでは、「球界の御意見番」たちがこれまで発した「コミッショナー」に関してのコメントをピックアップ。次期コミッショナーに求められる資質を改めて検証したい。
球界の盟主・読売巨人軍の渡邉恒夫氏がラブコールを送っているのが、王貞治・福岡ソフトバンクホークス球団取締役会長だ。他にも王氏を推す声は非常に多いが、王氏自身は今回の報道に対し、次のコメントを残している。
「世論うんぬんより、これから皆さんでどう決めるか。今日のオーナー会議でもどうこういうのはなかったでしょ? 僕自身は何も聞いていないし、仮定の話をしても、ね」
このコメントを見て、「アレ?」と思ったのは私だけだろうか。これまでにも何度かコミッショナー候補に名前があがっていた王氏だが、その度に「体力的・年齢的に無理」と即答していた。だが、今回は含みを持たせた回答をしているのが注目点だ。球界の危機に、さすがに居ても立ってもいられなくなったのか?
王氏待望論は特に元選手など現場サイドから多くあがっており、中日・?木守道監督も「王さんはみんなが認めとる人だからね。やれる!」と期待を示している。
一方で、前・中日監督の落合博満氏は、過去に自著『采配』の中で、コミッショナーに求められる資質を次のように述べている。
「過去のコミッショナーがよかったか悪かったかということではなく、現代のリーダーは、愛情や情熱、変革しようという意欲を基本に考えていくべきではないか」
このコメントと合致するかどうかは判断が難しいが、最近の講演会では、変革者にしてリーダーシップの塊・渡邉恒夫氏を推薦しているという。落合氏自身が候補にあがったりは……期待したい部分もあるが、当然あり得ないだろう。
サンケイスポーツ専属評論家の野村克也氏は、統一球問題が起きた際に、ある愛弟子をコミッショナーに推薦していた。
「コミッショナーにしても、現場を知らない人間に任せるからこういう問題が起こる。下田さん(下田武三氏=第7代コミッショナー)みたいな立派な人もいたけどそういう人のほうが稀。コミッショナーなんて古田がやればいいんだよ。どうせ暇でしょ」
何とも投げやりな発言だが、球界再編問題の際、古田敦也氏が見せたリーダーシップは実に頼もしかったのも事実。大幅に若返りを図るのも、決して悪いことではない筈だ。
それにしても、10年近く前の再編問題でバトルを繰り広げた渡邉恒夫氏と古田敦也氏の名前が候補として聞こえてくるところに、球界における「リーダーの人材力のなさ」を嘆かずにはいられない。
最後の一人は、近年、球界の新たな御意見番としてベストセラーを連発している愛甲猛氏。今年刊行された自著『球界への爆弾提言』の中で、コミッショナーにふさわしい人物を述べている。
「孫さん以上にコミッショナーに適した人物はいない。ソフトバンクのCMを見てもわかる通り、企画力は抜群だ。行動力、財力等権力者としてすべてが伴っている。政治家だって動かせる人物だ」
まさかの孫ソフトバンクオーナーをご指名。まあ、CMで企画力のあるなしを判断するのもどうかと思うが、球界に精通し、ビジネス面のことも把握している、というのは確かに大きな魅力だ。
こうして見ていくと人の数だけ候補者が増えそうだが、ここで名前のあがった人物名だけでも、現状よりは改善できそうな期待に満ちている。
歴代のコミッショナーの前職をみていくと、検事総長、最高裁判事、公正取引委員長など、法律関係に明るい人を求める傾向が強かったことがわかる。これは、野球機構における最高責任者である、という側面も強いだろうが、「どうせコミッショナーなんてお飾りなんだから、クリーンなイメージのある法律関係者でいいんじゃないか」という一部の勝手な思惑もあったのだろう。
だが、ファンの減少が叫ばれ、ビジネス的にも他のスポーツやエンターテイメント業界に押され気味の今のプロ野球界に必要なのは、明確なビジョンのある旗ふり役だ。そのことを改めて認識し、人選に当たることを切に期待したい。
文=オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。また「幻冬舎WEBマガジン」で実況アナウンサーへのインタビュー企画を連載するなど、各種媒体にもインタビュー記事を寄稿している。ツイッター/@oguman1977