悲惨なチーム状態にも関わらず、神宮球場のライトスタンドは連日のように賑わい、多くの燕党がビール片手に声援を送っている。一昔前までの「仕事帰りに行って、一杯飲もう」といった観戦はいまやできない。平日のナイターであっても19時に外野自由席が埋まっていることも珍しくないからだ。
さて、ヤクルトの魅力はどこにあるのだろうか。「やまーだてつと!」コールの一体感、バレンティンの特大本塁打、坂口智隆の鮮やかなクリーンヒット、代打大松尚逸の一振り。投手陣では米米CLUBが1987年に放ったヒット曲『浪漫飛行』を登場曲にマウンドに上がる山本哲哉、FiELD OF VIEWの『突然』をバックに現れる松岡健一など、登場曲での盛り上がりも含めて多くの魅力がある。
また、「勝った、負けた」だけではなく「おもしろい試合」が多いことも魅力の1つではないだろうか。
ここで言う「おもしろい試合」とはアメリカ合衆国第32代大統領フランクリン・ルーズベルトが語った「野球は8対7で決着する試合がおもしろい」に由来する「ルーズベルトゲーム」のことだ。
8対7のスコアで決着するルーズベルトゲーム。今シーズンのルーズベルトゲームは以下のように4回記録されている。
4月26日:中日 7対8 ヤクルト
5月4日:広島 8対7 中日
5月10日:ヤクルト7対8 広島
6月23日:ヤクルト 8対7 DeNA
このデータからわかる通り、ヤクルトはルーズベルトゲームを3回戦い、2勝1敗。これは両リーグ最多の数で、ポジティブに考えると最もおもしろい試合を演出しているチームといえる。
また、パ・リーグでは1試合も起こっていない。パ・リーグのどの球団よりも、おもしろい試合を見せているともいえる。あくまで、ルーズベルト大統領に言わせれば面白い、ということになるのかもしれないが……。
ただ、ルーズベルトゲームが打ち合いながらの一進一退、とういワクワクする展開になることは間違いない。よって、面白いゲームを期待したファンの足が自然に球場へと向かう……そういうことなのだ。
今シーズンから加入した新外国人投手のブキャナン。開幕からローテーションを守り、4勝3敗、防御率2.60と安定した投球を見せている。そのブキャナンが5回5失点(自責点5)でマウンドを降りた試合が2試合ある。
4月26日の中日戦と6月23日のDeNA戦だ。ブキャナンにとって5回5失点は大乱調。先発投手としての役割を果たすことができずに降板することは、さぞ屈辱だっただろう。
だが、この2試合は味方打線の奮起があり、ともに延長戦の末に8対7で逆転勝ち。ブキャナンは打ち込まれながらルーズベルトゲームを演出していたのだ。
ここ最近、神宮球場ではリードを許していると8回、9回を待たずして帰る観客も増えた。今季もエース級の働きを見せているブキャナンが降板したら帰りたい気持ちにかられるファンが出てくるのはわかる。
しかし、ちょっと待ってほしい。ブキャナンの5回5失点はルーズベルトゲーム開始の合図なのだ。ほかの先発投手が5回までに5点前後の失点を喫するときも然り、かもしれない。であれば、最後まで声援を送り、勝利を見届けようではないか。きっと、おもしろい試合を見せてくれるはずだ。
(成績は6月27日現在)
文=勝田聡(かつたさとし)