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原作もドラマも他とは違う着眼点が肝! 「弱くても勝てます」ドラマは今週が最終話!

 野球の映像作品をいろいろな角度から紹介していきます。原作や書籍視点で神田神保町古書店・ビブリオ店主が作品そのものや関連する書籍を解説。映像作品視点については、現在放送中のドラマについては、原作との違いや今後の注目点など、映画は概要とみどころを紹介していく。

 第3回目は『「弱くても勝てます」:開成高校野球部のセオリー』



 まずは「原作・書籍視点」で語る動画。
 普通、勝つために、強くなるために、高校野球の物語は進んでいくところだが、タイトルからして、勝つ気がないのがポイント。著者の?橋秀実は、その他の作品でも、このような少し違った着眼点、まさに目からウロコが落ちるような角度で捉えていく。新しい世界観を提示してくれる?橋秀実作品に一度触れることをオススメします!




 続いて、「映像作品視点」はここからスタート!

前代未聞の実験ドラマ、「弱くても勝てます」最終話を見逃すな!

 ドラマ「弱くても勝てます 〜青志先生とへっぽこ高校球児の野望〜」がいよいよ最終回を迎える。高校野球をテーマにした本作では、実にさまざまな「実験」がドラマを通じて描かれている。その実験の一端をチェックしてみよう。

実験1:原作がノンフィクション


 本ドラマの原作は、ノンフィクション作家の?橋秀実が2012年に上梓したスポーツ・ノンフィクション『「弱くても勝てます」:開成高校野球部のセオリー』。2012年度のミズノスポーツライター賞にも輝いた一冊である。

 本の副題にもあるように、舞台は開成高校野球部。もちろん、あの超進学校である開成高校だ。だから、弱い。冒頭でいきなり《下手なのである。それも異常に》と著者・?橋の感想が記されるほど。そんな弱小・開成高校野球部が2005年夏、都大会でベスト16まで勝ちあがったことで、?橋が興味を持ち始めたのが原作本誕生の経緯だ。

 過去、ノンフィクションをベースにドラマ化された物語はもちろんゼロではない。代表的なところでは、無名公立高校が高校ラグビーで全国制覇を達成する軌跡を描いたノンフィクション『落ちこぼれ軍団の奇跡』を基に制作された「スクール☆ウォーズ」などがあるだろう。

 だが、この原作本が特徴的なのは、開成高校野球部はまだ何かを成し遂げたわけではないということ。ゴール(結果)が主ではなく、そこに至るプロセスや野球への取り組み方そのものがテーマになるというわけだ。

 ドラマ化にあたっても当然、その「プロセス」をどう描くかという部分が肝になっている。ゴール(結果)からの逆算でストーリーが作れないだけに、脚本化にあたっても困難を極めたであろうことは想像に難くない。

実験2:甲子園は目指さない


 高校野球を題材にしているものの、本作における球児たちの目標は「甲子園出場」ではない。目指すのは強豪校撃破。非現実的な夢を追いかけるのではなく、目の前の目標をひとつずつクリアしていくことが大事なのだ。

 結果として、「高校野球=汗と涙の甲子園」というステレオタイプの呪縛から逃れることに成功できているのは、ある意味でドラマとしての強みともいえるだろう。

実験3:ヒーローキャラがいない


 本作の主人公は野球部監督を務める田茂青志(二宮和也)。この青志が実に“主人公らしくない”。決して熱血教師ではなく、しかもどちらかといえば根暗。生徒たちにもいつも文句ばかり言っている。

 本作を群像劇と捉えれば野球部の面々も主人公といえるだろう。だが、彼らにしても「弱い」がゆえに自信もなく、そして当然プレーもカッコ良くない。じゃあ、負け組男子が成長していく物語か? といえばそう単純でもない。なぜなら彼らは超進学校の生徒たち。野球は下手でも勉強では圧倒的に勝ち組。それゆえ、野球に対しての必死さや悲壮感がどうしても弱い。

 そんなキャラクターたちが物語を通じて、どう変わっていくか(変わらないのか)をチェックするのも本作の楽しみ方のひとつだ。


 このようにさまざまな「実験」が繰り返される本作。それはドラマの根底に流れるキーワードともいえる。

 主人公・田茂青志は、劇中で何度も「実験。実験だ!」と叫ぶ。グラウンドが週1日しか使えず、練習時間が少ないからこそ、普通の「野球の練習」ではなく、生徒自らが仮説を立て、実験と検証を繰り返すことで「自分だけの武器」を身につけていく。

 野球人気、そして競技人口の硬直化(減少)が叫ばれる昨今。新たな風穴を明けるのは、こういった実験的な取り組みの数々なのかもしれない。本作では、弱小野球部こそ「普通の存在」で、甲子園を視野に入れる強豪校は「異常な存在」という位置づけになっている。「高校野球」といえば、甲子園大会に出場できそうな強豪校と中堅校を連想しがち。だが、数でいえば甲子園に出場できるのは全国約4000校のうちのたった49校で、出場権争いに参加できる高校も数少ない。ピラミッドの下部に存在する約3000以上の高校野球部は弱くて、なかなか勝てないチームだ。そんな“圧倒的多数”の球児たちが参考にすべきヒントが、このドラマと原作にはつまっているのではないだろうか。

 メジャースポーツゆえに見落としがちな点をすくいあげていくドラマ「弱くても勝てます」。最終回ではどんな実験が施されるのか、大いに注目したい。

『週刊野球太郎』の過去記事には著者・高橋秀実に編集部・菊地選手がインタビューした『野球部ないない』があります。同時にお楽しみください。


■ライター・プロフィール
オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。『木田優夫のプロ野球選手迷鑑』(新紀元社)では構成を、『漫画・うんちくプロ野球』(メディアファクトリー新書)では監修とコラム執筆を担当している。ツイッター/@oguman1977

■動画出演者・プロフィール
小野祥之(おの・よしゆき)/プロ・アマ問わず野球界にて知る人ぞ知る、野球本の品揃え日本一の古本屋『BIBLIO(ビブリオ)』の店主。東京・神保町でお店を切り盛りしつつ、仕事で日本各地を飛び回る傍ら、趣味はボウリングと、まだまだ謎は多い。

鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。“ファン目線を大切に”をモットーに、プロアマ問わず野球を追いかけている。Twitterは@suzukiwrite

■お店紹介
『BIBLIO』(ビブリオ)
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1丁目25
03-3295-6088

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