やはりブラジル戦や中国戦とは緊張感が違った。そして野球の「質」が違っていた。昨晩の日本vsキューバの試合、最終回の追い上げも及ばず、日本は3−6で敗れた。勝者には「光」があたり、敗者には「影」がつきまとう勝負の世界…。今回は両チームでハッキリ分かれた「明と暗」を切り口にして、お互いの戦力や采配、そして監督にいたるまでを比較してみた。
◎明暗その1:先発左腕
キューバ先発のペレスは36歳の技巧派左腕。キューバ国内リーグで9勝2敗、防御率1.41と安定した成績を残しており、この試合も日本打線を3回無失点に抑えて無難に先発の役割を果たした。「球審とうまくいっていない」と桑田真澄氏に繰り返し解説されていたが、そういった悪条件でも結果を出すあたりはさすが、経験豊富なベテラン投手といえるだろう。
対する日本の先発・大隣憲司(ソフトバンク)の調子は上々だった。ストレートとチェンジアップの制球がよく、2回までパーフェクト。しかしその調子の良さが裏目に出たのが3回裏。先頭のトマスに先制ソロを浴びて先制点を奪われてしまった。調子がよかっただけに、ポンポンと単調なリズムで投げてしまった感は否めない。結果的にこの一球だけが悔やまれる、なんとももったいない投球内容だった。
ベテラン投手ペレスの「したたかさ」と、若い大隣の「経験不足」の差がモロに出てしまった感を受けた。「先に点を与えない」というミッションを果たしたペレス。果たせなかった大隣。「明」と「暗」が分かれた両先発投手だった。
先制点を取ったキューバは4回から2番手のゲバラをマウンドへ送り込む。日本にとって、このゲバラに6回途中まで抑えられたのが敗因だろう。この投手も制球がよく大崩れしないタイプで、時折みせるサイドスロー気味に腕を振る投球フォームは打者を幻惑し、特に右打者の外角に逃げるように落ちるスライダー系の球種は日本打線には有効だった。他の対戦国にとっても参考になるピッチングだったのではないだろうか。
「明」のゲバラに対して「暗」だったのは、日本の2番手として登板した田中将大(楽天)。ゲバラと同じく4回から登板もいきなり連打を浴び、あっという間に追加点を許してしまった。その後は変化球主体のピッチングに切り替え、5打者連続三振を奪うなど復調したが、登板直後に失点するなど「(先発ではなく)中継ぎ登板が不慣れだったのでは?」と思わせる投球内容で、悔いが残る結果になってしまった。
一時は最大6点差をつけたキューバ打線。その爆発力は世界的にもトップレベルだということが証明された試合だった。早いカウントから積極的に打ちにいく姿勢は日本も大いに見習うべきだ。3回裏のトマスの本塁打はカウント1−1から、4回裏のセペタのタイムリーは初球打ち……と追い込まれる前に迷わずバットを振るという打線が「明」となり、前回のキューバ攻略大作戦で紹介した「迷わず2ストライクまでは振り抜け!〜積極打撃大作戦〜」をキューバにやられてしまった感があった。
逆にチャンスは作るが、あと一本が出ない日本打線。最大の好機だった6回表は一死から糸井嘉男(オリックス)が四球で出塁後、続く中田翔(日本ハム)がランエンドヒットを決めて1死一、三塁のチャンスを作るも、稲葉篤紀(日本ハム)の痛恨の併殺打で流れが一気にキューバへと傾いてしまった。また3回表は不調の長野久義が四球で出塁するも松井稼頭央(楽天)が送りバントを失敗するなど、日本の「お家芸」であるはずのスモールベースボールが出来なかったのも「暗」といえるだろう。
攻撃面でも触れたが、キューバの各打者が追い込まれる前に積極的に打ちにいく姿勢をみせたのはキューバベンチの采配ではないだろうか。また6回裏の1死三塁の場面では、三塁ランナーに代走を送った直後にタイムリーで追加点。さらには8回裏、四球で出塁したランナーに代走を送り、次打者との間でエンドランを敢行。直後にアルフレド・デスパイネ選手が今村猛(広島)から勝負を決める3ランを放ち、まさに試合の明暗を分けた格好。キューバの積極的に動く采配で、選手たちは「明るく」グラウンドを縦横無尽に駆け巡り、結果好きなようにやられてしまった感がある。
対する「暗」の日本采配。解せないのは投手起用について。前回のキューバ攻略大作戦で紹介した「“荒れ球”投手で勝負せよ!〜投手起用大作戦〜」でお伝えしたように、腕の長いキューバの各打者はストライクゾーンで勝負する投球術に対してめっぽう強く、真っ直ぐ系の球筋で力勝負を挑んでもそのパワーで弾き返される可能性が高い。そういう意味ではストライクゾーンで力勝負するタイプの田中や澤村拓一(巨人)が、腕の長いキューバ選手の餌食になった格好だ。
最も「明」と「暗」がハッキリして、わかりやすかったのが両監督ではないだろうか。選手以上に目立っていたキューバ・メサ監督。とにかく、自ら先頭に立って選手を引っ張る姿勢には驚いた。投手交代時にはマウンドで投手を派手に激励し、攻撃時にはオーバーアクションで選手を鼓舞する姿は「明」そのものだった。6点差あったにもかかわらず、9回の小刻みな投手継投策は、結果的には失点してしまったが、日本戦への執念みたいなモノが感じられた。
対して「暗」の山本浩二監督は全体的に大人しかった。ベンチでバナナを食べるメサ監督ほどのパフォーマンスは求めないが、やはりこの試合のような重苦しい試合展開を打破するには、ベンチの雰囲気作りも大切ではないだろうか。第2ラウンド以降も同じような試合展開が予想されるが、その時に選手を鼓舞する「何か」が欲しいと感じたのは、自分だけではないはずだ。
キューバに敗れてプールAの2位通過が決まった日本。次戦は舞台を東京ドームに移し、明日8日からプールBを1位通過したチャイニーズ・タイペイと戦う。第2ラウンドの組合せはキューバvsオランダ、日本vsチャイニーズ・タイペイとなり、キューバと日本が共に勝っても負けても再戦することになる。まさに「因縁の対戦相手」であるキューバだが、昨日の敗戦は第2ラウンドに向けて今一度、気を引き締める「良い薬」になったと前向きに捉えることにしよう。