今シーズンの藤浪で最も記憶に残るゲームとなったのが、7月8日の広島戦(甲子園)だろう。
この試合での「8回・161球」の熱闘は、懲罰登板ではないかと金本知憲監督が槍玉にあげられ、試合後、続投の是非が問われた。
初回先頭打者から四球を与え、安打を浴び、再び四球で崩れるという、いつもの悪い藤浪の投球内容だった。
3回で5失点の後、7回までは持ち直しはしたものの、金本監督は「同じことの繰り返し、何も変わっていない!」と、藤浪を続投させた。
8回、藤浪は緊張の糸が切れたのか、再び四死球と適時打を与え、この回の3失点で降板となった。
金本監督からすれば、気持ちのこもっていない投球がここまで続いているように見えていたのかもしれない。
マウンドで淡々と投げぬく藤浪は、いい意味で冷静沈着である反面、四球で崩れ痛打を浴びだすと、気持ちがこもっていないと受け取られがちだ。
大阪桐蔭高の西谷浩一監督も、藤浪は高校時代からマウンドでボーっとしていることが多かったという。
非常にクレバーで考え抜いた投球を見せるかと思えば、フィールディングなどの機敏さが必要な場面では不器用さが目につくことがある。それも、集中力を欠いているように感じさせる要因なのだろう。
197センチという恵まれた体は、長い手足を武器として、より打者に近いところでしなりを最大限生かした投球を生む。
しかし、この手足の長さが、自由に操りづらいやっかいな代物にかわることもあるのだ。
今シーズン、一塁ベースカバーを怠った藤浪が、ベンチで福留孝介から叱責されている様子が映し出されたことがあった。
藤浪自身、決して力を抜いたプレーをしたわけではない。ただ、不器用さが出て、フィールディングや送球のミスを誘発する。そんな負のメカニズムに陥っていたのではないだろうか。
入団以来、藤浪は同期の大谷翔平(日本ハム)と何かと比較されることが多い。確かに、4年目のシーズンを終えて、大谷に水をあけられた感はある。
しかし、藤浪は手足の長い恵まれた体と、クレバーな頭脳を十分に生かしきっておらず、未だ発展途上だ。
藤浪にとってシーズン最終戦となった9月30日の巨人戦や、足でかき回されることから苦手としていた広島に完投勝利した9月22日のゲームを見る限り、課題を克服してきているようにも見える。
大阪桐蔭高時代も遅咲きであったにもかかわらず、3年生ではしっかり栄冠を勝ち取った藤浪である。
藤浪のこれからの“伸びシロ”を考えれば、大谷との勝負もまだ結論を出すには早急すぎる気がする。
今シーズンに味わった初めての挫折が、藤浪にとって良薬となり来季へとつながることを願ってやまない。
文=まろ麻呂
企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子供のころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには!」をモットーに、日々書き綴っている。