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牧田明久(楽天)のプロ野球人生・16年間を支えた優れたマーケティング戦略


「まさか、この選手が楽天創設を知る最後の在籍選手になるとは!」

 今季を限りに引退した楽天・牧田明久に対し、そんな感慨を抱く野球好きは多いだろう。

 牧田は2001年にドラフト6位で近鉄入団。花開いたのは楽天の創設メンバーになってから。しかし、タイムマシンで楽天が球団を創設した12年前にさかのぼり、あの頃の野球ファンに冒頭の事実を告げても、誰も信じなかったはず。それほどまでに牧田の現役生活は興味深いものになった。

 主な通算成績は、691試合に出場して1686打席385安打、150打点、23本塁打、打率.253。パッと見は平凡だ。にもかかわらず、プロで16年も生き抜くことができた背景には、チーム状況に応じ、そのつど自身の武器を変え、自らの価値を高めながら首脳陣にアピールした牧田のマーケティング戦略があった。

◎23歳〜27歳:優れた外野守備力を武器に1軍戦力へ

 1つ目のアピールポイントとなったのは強肩を生かした外野守備。23歳(2005年)から27歳(2009年)までの5年間のことだ。

 途中出場数が先発出場数より多く、野村克也監督に「専守防衛」と評された優れた守備力で主に守備固めでプレーした。一方、バットでは356打席で打率.237。本塁打も1本のみ。野村監督が評したように、まさに「自衛隊」で1軍への足場固めとキャリア形成に成功した時期に当たる。


28歳〜31歳:チームの最大弱点を補った覚醒したパンチ力


 2つ目はチームの苦境を救った「遅咲きのパンチ力」。該当期間は28歳(2010年)から31歳(2013年)までの4年間のことだ。

 この時期の牧田にとって松井稼頭央の存在も大きかった。2011年からともにプレーしたベテランの逆三角形の肉体美は、同じく肉体改造中の牧田に刺激を与えた。

 その結果、パンチ力が開花。セイバーメトリクスで純粋な長打力を表すISOが4年連続でリーグ平均を超え、835打席で量産した長打はホームラン19本を含む68本に及んでいる。

 チームが慢性的長打力不足に悩まされたこの時期には、統一球でNPB全体が極端な投高打低に陥った2011年、2012年も含まれている。そのなか、背番号が「63」から1ケタの「5」に変わった2012年には、松井と並ぶチーム最多の9本塁打を放つ槍働きをみせた。集大成は、2013年日本シリーズの第7戦で、巨人の澤村拓一から放った左越えソロ弾だ。

32歳以降:晩年の2年間は打率3割。巧打でチームに貢献


 3つ目は打率を追求した32歳(2014年)以降の現役晩年の3年間だ。

 パンチ力に陰りが生じたところで自身の持ち味をミート・バッティングへ鮮やかにチェンジ。最後の2年間は1本塁打ながらも、打率は2年連続で3割を超えた。2015年には代打打率.583を記録するなど、右の代打としてベテランの味も見せた。

 残念だったのは、ケガが多く規定打席に一度も届かなかったこと。しかし、チームに足りないところを的確に見抜き、その弱点を手当てする球団史上最高の「脇役戦力」としてプレーした。だからこそ、6人の指揮官に信頼され、平均選手生命が10年に満たないプロで16年間も活躍することができたのだ。


文=柴川友次
NHK大河ドラマ『真田丸』で盛り上がった信州上田在住。真田幸村の赤備えがクリムゾンレッドに見える楽天応援の野球ブロガー。各種記録や指標等で楽天の魅力や特徴を定点観測するブログや有料メルマガ、noteを運営の傍ら、ネットメディアにも寄稿。

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