テニスコートに対角線を引くようなショットに追いつき、鋭くストレートに打ち抜く。
テレビの前で、思わず拳を突き上げてしまう錦織圭のダウンザラインウィナー。
コートを駆け回り鋭いショットを見せる錦織を見て「いいセカンドになる!」と思ったのは自分だけだろうか。
スローイングという大問題はあるが、一塁寄りのゴロなら右手を添えバックハンドの要領で力強いグラブトス。二塁ベース寄りのゴロは、二塁を越えて走り込んできたショートにトスしてスローさせよう。
両手でラケットを扱う錦織は、グラブも両投げ投手が使うものを、付け替えながらプレーさせてもよいかもしれない。
ただ、テニスコートを野球のグラウンドの寸法に乗せてみると、意外と小さい。錦織が左右に走り回るベースラインの長さはシングルスで8.23m、ダブルスでも10.97m。野球の塁間は27.43mだから約3倍はある。テニス以上に距離のある移動でも、あのフットワークが生かせるかは未知数だ。
また、長身選手の多いテニス界では小さく見える錦織だが、178センチで70キロとそこまで小柄なわけではない。NPBの主なセカンドは、
菊池 涼介(広島) 171cm69kg
本多 雄一(ソフトバンク)174cm72kg
田中 賢介(日本ハム) 176cm78kg
片岡 治大(巨人) 176cm80kg
山田 哲人(ヤクルト) 180cm76kg
浅村 栄斗(西武) 182cm90kg
といった背格好なので、錦織は多少体重が軽いとはいえ、ありえないサイズではない。
打撃はフォアハンド、バックハンドどちらでも打てることを考えれば、スイッチヒッターでいける。
200km/hはあるサービスを、テニスラケットのスイートスポットで打ち返しているのだから、バットならぬラケットコントロール力はかなりのものであるはず。
錦織は契約を結ぶスポーツ用品メーカーの宣伝動画で、子どもの頃に野球をやっていたと話している。そこで「高い球も低い球も打ちにいってしまい『テニスじゃない』と叱られた」と述べている。
おそらくボールの見極めはやや苦手な早打ちタイプなのだろう。四球を選んだり、好球を待つことができない弱みを、多少の悪球でもヒットにするくらいのバットコントロールで補えるかが成功のカギになりそうだ。イチロー(マーリンズ)や秋山翔吾(西武)のようなスタイルを目指したい。
ただ注意が必要なのはやはり距離感。サービス時に相手選手と対峙する距離(テニスコートの縦の長さ)は23.77mなのに対しバッテリー間は18.44mと短い。最初は打席でのタイミングが合わず苦労するかもしれない。
錦織の昨年の獲得賞金は約4億6000万円。今年も3億以上を稼いでいる。獲得には最低でもこの数倍の金額が必要だろうが、何かの奇跡が起きて実現することがあれば獲得球団は、オフ、キャンプ、開幕まで話題を独占するのは間違いない。
文=秋山健一郎(あきやま・けんいちろう)
1978年生まれ、東京都出身。編集者。担当書籍に『日本ハムに学ぶ勝てる組織づくりの教科書』(講談社プラスアルファ新書)、『プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクスリポート1〜3 』(デルタ、水曜社)など。
次回12月8日(火)の『プロ野球界にコイツが欲しい!』は甲斐昭人(ハンドボール)を紹介予定