打者がスイングをした後、ストライクかボールかのジャッジが下されていないのに、球審からなにやら宣告を受け、一塁に歩き出すことがある。
その瞬間、球場にはどよめきが起こる。ラジオで実況解説を聞いている観客は少ないため、瞬時に何が起きたのかを判断するのは難しい。では、何が起こったのか?
そう、打撃妨害だ。
打撃妨害に関する詳細なルールは公認野球規則を確認していただきたいが、多くの場合は、打者がスイングしたバットにキャッチャーミットが触れることでコールされる。
今シーズン、打撃妨害はすでに3度記録されている。しかも、すべて神宮球場におけるヤクルト戦だ。
テレビで観戦していれば解説者やアナウンサーがリプレーで確認し、すぐに打撃妨害だと視聴者にも伝えられるだろう。
しかし、球場にはスタンドの観客に語りかける解説者はいない。そのため、「何が起こったのか!?」とどよめきが起こり、少し経ってから理解する。すぐにわからないからこそ楽しめる「間」も現地観戦の醍醐味だ。
■今シーズンの神宮球場で起こった打撃妨害
5月2日:対阪神(打者:武内晋一)
5月9日:対広島(打者:武内晋一)
5月21日:対阪神(打者:星知弥)
球場で観戦していると、投手の長い間合いや度々の牽制球、敬遠などで相手チームのファンからブーイングが起きるのを目の当たりにする。ブーイングの是非はさておき、このブーイングが一転して歓喜の声に変わることもある。
それは5月21日のヤクルト対阪神戦で起きた。
4対4の同点で迎えた7回表、2死二、三塁。阪神のチャンスで、打者は4番の福留孝介。ヤクルトバッテリーは福留を敬遠し、次打者・中谷将大との勝負を選択した。
捕手が立ち上がり敬遠だとわかると、左翼スタンドを埋める阪神ファンからは大きなブーイングが。阪神ファンの気持ちはわからないではない……。
ところが、ヤクルトのルーキが敬遠球を大暴投し、三塁走者が生還。5対4と阪神が逆転に成功するやいなや、阪神ファンのブーイングは歓喜の「六甲おろし」へと変化した。
こういった観客のテンションの変化を生で感じられるのも球場観戦の楽しみの1つだ。
筆者としては、敬遠大暴投という悪夢を笑い話で済ませるためにも、ヤクルトに勝利して欲しかったところだが、そうは問屋が卸さない。これが決勝点となりヤクルトは敗戦した。
翌日は月曜日。移動日のため試合はない。「勝って笑う」には火曜日の夜まで待たなければならない……。筆者が傷心の月曜日の朝を迎え、そのまま次の試合まで長い時間を過ごしたのは言うまでもない。
今シーズンの開幕カードでヤクルト史上35年ぶりとなる、代打サヨナラ満塁本塁打が鵜久森淳志のバットから生まれた。また5月には、鵜久森と同じくどん底から這い上がってきた大松尚逸がサヨナラ本塁打を放った。
サヨナラ本塁打の歓喜はテレビでも味わうことができるが、その盛り上がりは球場のそれとは違う。まず、本塁打を期待できる打者が打席に向かう瞬間から、ヤクルトファンで埋まる右翼スタンドだけでなく球場全体の雰囲気が変わるのだ。
もちろん、チャンスの場面では「夏祭り」や「ルパンのテーマ」が流れ、応援団が盛り上げる。登場曲に乗って打者が打席に入ると応援歌、チャンステーマに合わせファンは声を出す。
これはこれでワクワクする瞬間なのだが、サヨナラ本塁打の劇的さにはかなわない。だからこそ、サヨナラ本塁打を球場で体感できたときこそが、最高に盛り上がる至福の瞬間なのだ。
球場でないと味わえないよさもある。それが野球の醍醐味だ。
(成績は5月23日現在)
文=勝田聡(かつたさとし)