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第1回■「殺気の中に王がいた」(荒川博・著)

 当時の巨人軍打撃コーチを務めていた荒川博が王貞治に「一本足打法」を指導した際、その指導ぶりが「荒川道場」と称されたことは、昭和のプロ野球ファンであれば誰でも知っているはずだ。この本はその「荒川道場」にて“世界のホームラン王”が誕生するまでの道程を、荒川が記していた練習日記を基にアツく、激しく書かれている。
 日記は昭和37年7月1日から始まっているが、まさにその日から打撃フォームをモデルチェンジする決意した2人。それから試合のある日もない日も延々と繰り返される素振り、素振り、素振り…。畳が擦り切れて足の裏から血が噴き出し、バットとの摩擦でできた手の平から浮き上がる数々の血豆。そして有名なエピソードとして今でも伝わっている「真剣をバット代わりに振り下ろし、吊り下げられた紙をスパッと切る」あの練習方法についても記されているが、その2人のやり取りはもはや野球とはかけ離れた、精神的な「何か」を追い求める求道者と言っても過言ではないだろう。そして「野球地獄」という言葉がふさわしい阿鼻叫喚と化した鍛錬の場を潜り抜ける王貞治は、まさに本のタイトル通りの「殺気」を身にまとい、指導する荒川をも驚愕させるほどの精神力でバットを振り続けるのだった。

 真剣をバット代わりに使うということは今の時代では「銃刀法違反」で捕まるだろう! とツッコミを入れたくなるが、この本に記されている内容はまさに「劇画」や「漫画」の世界。鳴り物入りで入団した王がパッとしない時期を乗り越えてブレイクしたのは「荒川道場」のおかげであることは間違いないが、そういったサクセスストーリーの要素もふんだんに盛り込まれており、他にも師匠である荒川が飲みに行ってしまい道場に行く時間が遅れてしまった時も黙々とバットを振り続ける王貞治に師匠・荒川が「すまん」と謝る場面は泣かせるシーンだ。成功への苦労話や、師匠と弟子の涙なしでは語れない場面など、まさにこれぞ「野球ロマン」とよぶに相応しい物語といえるだろう

 一連のWBC日本代表監督を選定する際に思ったが、今の日本野球機構(NPB)には「困ったときは王さんに相談しよう」みたいな空気がある様に感じる。NPBが王さんを使ってソフトバンク秋山監督に日本代表監督を要請したとか、NPBの存在意義は何なのか? という話はさておき、やはりその人柄や有形無形問わずこれまで王さんが積み上げてきたモノの偉大さに、ファンも選手も「王さんだったら」的な大義名分が存在していると思う。尖がったカドのある話も、王さんがいれば丸く収まる。考えてみればそれはスゴイことで、「王貞治」といった存在が無かったら日本プロ野球界は混乱の一途を辿るのでは? と今更ながら心配になってしまうのは私だけではないだろう。この本を読んで、もっともっと「王貞治」さんを大切にしよう! と強く思ったのでありました。



■プロフィール
小野祥之(おの・よしゆき)/プロ・アマ問わず野球界にて知る人ぞ知る、野球本の品揃え日本一の古本屋「ビブリオ」の店主。東京・神保町でお店を切り盛りしつつ、仕事で日本各地を飛び回る傍ら、趣味はボーリング。と、まだまだ謎は多い。

文=鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他共に認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。

■お店紹介 『BIBLIO』(ビブリオ)
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1丁目25
03-3295-6088

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