「左の大砲不在」はヤクルトの数多くある課題のひとつだ。右の大砲はスター選手となった山田哲人がおり、ほかにも廣岡大志という候補がいるものの、左の大砲となると候補も見当たらない。
もちろん、現在のヤクルトは先発投手、中継ぎ投手、控え野手を含めた全体的な野手陣と補強ポイントは多い。いや、補強ポイントではない部分を探す方がむずかしいだろう。
そのような状況のなか、今秋のドラフトでヤクルトは清宮を1位で指名すると報道された。夏の甲子園も終了しておらず、もちろん確定した話ではない。ブラフの可能性だってある。昨年もドラフト直前まで佐々木千隼(桜美林大→ロッテ)を指名すると報道されていたが、フタを開けてみれば寺島成輝(履正社高)の一本釣りだった。
しかし今夏、衣笠剛球団社長兼オーナー代行が西東京大会の準々決勝で清宮を視察していることからも本気度は高いだろう。
ここで、ヤクルトの「高卒野手1位指名」の歴史を振り返ってみたい。高卒野手の1位指名は2011年の川上竜平(光星学院高、現八戸学院光星高)が直近だ。その前年(2010年)には「外れ外れ」の1位ではあるが、山田(履正社高)を指名している。
これまでの高卒野手の1位指名は分離ドラフト時代も含めて7名。もっとも成果を出しているのが山田だ。いや、山田しか成果を出していないと言ってもいいかもしれない。
そのほかでは八重樫幸雄(1969年、仙台商高)が目立つ程度で大きな実績を残した選手はいない。とはいえ、杉村繁(1975年、高知高)、三木肇(1995年、上宮高)は指導者として成功しているといえるだろう。この系譜に8人目として清宮の名前が加わるのだろうか。
清宮が入団した場合の起用法を考えてみる。清原和博(元西武ほか)クラスでないと高卒1年目から一塁手でのレギュラー獲得はむずかしい。現実的には数年間はファームで鍛え、満を持して2020年あたりに1軍レギュラーに定着する形だろうか。
現在は畠山和洋と外国人選手らで一塁を埋めているが、畠山は今年35歳。2020年は38歳になっているため、レギュラーでいるとは考えにくい。代打の切り札、もしくは新井貴浩(広島)のように休み休みの起用となるだろう。ちょうど、一塁手は不在となりタイミングは悪くない。
一方で今シーズンはヘルニアの影響もあり1軍出場がない川端慎吾が、一塁にコンバートされる可能性は十二分にある。また、すぐにではないにせよ山田も同様だ。現在の主力選手たちが回ってくる可能性がある一塁を清宮で埋めるのだろうか。
加えて、指名打者制度のないセ・リーグにおいては、清宮を一塁に置くことで大砲候補の外国人選手の守るポジションもひとつ減らしてしまう格好となる。
近い将来、一塁のポジションが空くという事実。左の大砲候補不在という現状。これらの状況と現主力選手の一塁へのコンバート、外国人選手の選択肢が狭まる不具合を天秤に掛け、小川淳司SDを中心としたフロントはドラフト戦略を考えていくはずだ。
今秋のドラフト1位は誰になるのだろうか。今から楽しみは尽きない。
文=勝田 聡(かつた・さとし)