まず注釈を述べさせていただきたい。最速153キロ右腕・栗林良吏(名城大3年)、最速143キロの技巧派左腕・伊藤将司(国際武道大3年)、最速146キロの「完全試合右腕」青島凌也(東海大3年)、明治神宮大会優勝の立役者である最速150キロ右腕・松本航(日本体育大3年)。そして、俊足強打の大学ナンバーワン外野手・辰己涼介(立命館大3年)。日米大学野球選手権、ユニバーシアードに侍ジャパン大学代表に選出された3年生5名は今回の侍ジャパン大学代表候補強化合宿に招集されていない。
その理由は……。「彼らについては、実力はもうわかっているので」と話すのは、彼らを代表監督として指揮し、今回は選考委員を務める善波達也・全日本大学野球連盟監督会会長(明治大監督)。今合宿最大のテーマが「新戦力の発掘」である以上、招集する大学代表経験者は侍ジャパンとしての最低限の流儀をリーダーとして伝えられる最小限の人数でよいという考えからだ。
ということで、今合宿での侍ジャパン大学代表経験者は、日米大学野球のみ出場の吉田高彰(上武大3年、捕手)と中川圭太(東洋大3年、内野手)、渡辺佳明(明治大3年、内野手)、長沢吉貴(日本大3年)の4名。吉田は常時二塁送球1.9秒を切る強肩を見せつけ、中川、長沢も特に守備面で安心感を与えるプレーを貫いていた。そのなかで特に印象に残ったのは合宿の「まとめ役」に指名された渡辺の「粘り」だった。
50メートル走では志願した2度目の測定で自己ベストを0.3秒縮める6.0秒をマーク。最終日の紅白戦でも左投手から逆方向を意識した適時打からの二進、吉田の中前打での躊躇なくホームに突入するなど、「合宿で左打者同士で攻略法を話し合った」研究成果をすぐに打席で出した。
「よく見るといい選手だよね」。某プロ球団スカウトも目を見張った成長度を来春以降も続けることができれば、渡辺元智前横浜高監督の血を継ぐ「高校球界大監督の孫」がプロ球界の星となる日が一気に現実味を帯びてくる。
「やってしまった」。2日目の紅白戦中、そんな声がベンチ前で響いた。声の主は最速152キロ右腕・甲斐野央(東洋大3年)。この日はスライダーが多く、最速は145キロ止まり。しかも既定の3回を投げ、毎回の5安打を浴びて3失点。メロメロだった。
また、甲斐野の前に登板した明治神宮大会優勝投手の最速153キロ右腕・東妻勇輔(日本体育大3年)も、最速147キロは出したものの「体が早く開きすぎる」と全日本大学野球連盟・鈴木英之幹事(関西国際大監督)も指摘するほどの力みかえり。3イニングス目こそ三者凡退で我を取り戻したが、結果は被安打6、四死球4の6失点に終わっている。
対して法政大のスリークオーター・菅野秀哉(3年)は、14試合中実に11試合に登板した秋季リーグ戦同様の鉄腕ぶりを発揮。3回を1四球のみの9人、38球で片づけた。140キロ前半から最速147キロまでのストレートの球速帯で強弱をつけた投球を淡々と続け、「実戦派」の印象をより高めた。
そのほか、本誌『野球太郎』のB評価以上の選手では、小郷裕哉(立正大3年、外野手)が岡山・関西高時代から定評のあった俊足の一端を二塁内野安打と左中間二塁打で示した。また、今秋のリーグ戦で完全試合達成の山本隆宏(関西大3年)も172センチ80キロの体をいっぱいに使って最速146キロを出しつつ、3回無失点。いずれも追い込んでからの決め球を欠いた最終回の3四球を反省材料にできれば、ドラフト指名の枠には当然入ってくる人材だ。
そして、今合宿に参加した左腕5名のうち最もインパクトを与えたのが最速151キロを誇る高橋優貴(八戸学院大3年)。178センチと身長は平均的ながら体の移動に腕が絡みつくように投ずるため、相手打者はどうしても差し込まれる。事実、紅白戦でも最速145キロのストレートで、詰まらせての併殺に打ち取ること2度。120キロ台のチェンジアップ、スライダーで2三振を奪い、3回を無失点に封じた。
今後は紅白戦で与えた毎回4四死球の制球難さえ改善に向かえば、八戸大時代の塩見貴洋(楽天)が2球団から重複指名を受けた2010年以来、8年ぶりの「八戸学院大からドラフト1位指名」が、より現実味を帯びてくる。