まず、レポートを始める前に、燃えプロの最大のウリ(?)ということで、代表的な3つの不条理設定を紹介したい。この不条理を体験することこそ、今回の最大の醍醐味である。
■不条理な設定
@ファウルの後はどんな球でもストライク
Aバントでホームラン
B選手を使い切るとゲームセット
なかでも「Aバントでホームラン」こそ、燃えプロの真骨頂的不条理。長打力のある強打者は、バントの構えでボールを当てただけでホームランになるのだ! 筆者は幼少期、ホーナー(元ヤクルト[※])は、バントでもホームランが打てると真剣に信じていた。
これ以外にもまだまだ不条理な設定を秘めている燃えプロ。クソゲー伝説はこんなものではないのだ。それでは早速プレイしてみよう。
(※ホーナー=1987年4月末にヤクルトに入団し、シーズン31本塁打を記録。1987年のみの在籍ながら強烈なインパクトを残した)
30年ぶりの燃えプロとの再会に高鳴る鼓動を押さえつつ、カセットに息を吹きかけスイッチを入れる(お約束)。
懐かしさに浸りながら、まずはペナントレースを選択。ワンマッチの「VSモード」は人同士の対戦のみで、コンピュータとの対戦は長い長いペナントモードでしかできないのだ……。選ぶチームは、筆者が愛してやまない広島をモデルにしたCチームだ。
優勝シーンを見るまでやめられない戦いが今始まった。
程なくプレイボール。Dチームを相手に後攻でスタート。
投球画面は、今でこそ一般的となったテレビ中継と同じマウンド背後からの画面。当時は画期的なプレイ画面として大いに話題を呼んだ。
しかし、この画面、恐ろしく操作が難しいのだ。今の野球ゲームのように投げる球種とコースを選択して投げるのではなく、そのまま投球するので、球がどこに行くのか予測できない。
今の野球ゲームに慣れすぎた弊害か? 昔は特に不自由に感じていなかったが、今やると手も足も出ない。適当に投げた球が全て打ち返され、初回からビッグイニングを献上する始末。
そして、画面では様々な演出がこれでもかと続く。これも画期的な演出として話題を呼んだのだが。打者がバッターボックスに入るときや、投手交代の際にいちいち演出があり、とにかくしつこいのだ。ファミコン版はその演出のスキップができないため、毎度、最後まで見させられるのが苦痛……。
その上、ホームランが出ようものなら、うなだれる投手と歓喜の打者が登場。この演出もいちいち長くて心をへし折ってくる。
こうして長い長い守備時間が終わり、ようやく訪れた攻撃。さあ、バントでホームランをかっ飛ばして逆転だ!
そう意気込んで操作するも、バッティングはピッチング以上に高難度だった。投球以上にどこにくるかわからない球にバットは空を切る。期待したバントでホームランも、バントで当てることすら難しくてかすりもしない。
空振りの山と無慈悲な攻撃を受け続けること1時間。通常の野球ゲームは20分から30分で終わるものだが、このゲームは1時間たった段階でまだ6回だった。終わりの見えない戦いのなか、本日3度目のビッグイニングに見舞われた時、筆者は静かにコントローラーを置いた。
期待していたバントでホームランやしつこい演出以前に、難易度の高さに挫折してしまったのだ。
このようなアバウトなゲームが、よくも150万本のヒットを記録したものだ。怒りをにじませ、そう感じた筆者であった。
しかし、当時の子どもたちは燃えプロを“クソゲー”として受け入れ、その不条理を楽しんでいたことを覚えている。何かとギスギスしてしまう現代には、こういうおおらかさこそ必要なのかもしれない。
心を広く持とう。
そんなことを燃えプロが教えてくれたお盆のひと時であった。便利な現代では、ダウンロードで燃えプロを手に入れて、プレイすることができる。この“クソゲー”を体感したい勇者はぜひ試してほしい。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)