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file#003 増渕竜義(投手・ヤクルト)の場合

◎ヤクルト若手投手陣の一角・増渕竜義

 ヤクルト自慢の若手投手陣の一角として、今季も49試合に登板した増渕竜義。その荒々しい投球は、埼玉・鷲宮高校時代から人を惹きつけるものがあった。
 私が最初に見たのは、今から8年前となる2004年5月。茨城県で開催された関東大会でのことだった。水戸市内の茨城県営球場で行われた、一番のお目当ては、第2試合で出場するだろう、文星芸大付属高校の左腕・泉徹也(元ヤクルト・泉正義の弟)だった。だが、この日マウンドでゲームを作っていたのは、現在もJX-ENEOSで活躍している同じ左腕の沼尾勲だったし、対戦相手の太田市立商業高校にはエース左腕の相澤寿聡(元広島)と4番ショート・細谷圭(現ロッテ)がいて、さらに増渕の鷲宮と対戦した前橋工業高校には、当時は捕手ながら1番を打っていた星秀和(現西武)の姿もあった。目的の選手以外にも、後々上の世界で活躍する選手に出会える喜びがあるから、アマチュア野球の観戦はやめられない。

◎荒々しさと悪ガキっぽさがマッチしていた高校1年時

 話を増渕に戻そう。
 当時の増渕は、上記の選手たちと違い、まだ1年生だったが、背番号11を付けて早くもベンチに入っていた。この試合の鷲宮は、前橋工を相手に8回終了時点で2対4と劣勢を強いられたが、9回表に5点を挙げて逆転。その裏に増渕の登板機会がやってくる。
 実際、このときの投球内容については、正直言うと事細かには覚えていない。ただ、ボールは荒れ気味ながら、全体重を預けるような体重移動と、当時から大きく変わらぬスリークオーター気味の独特なサイドスローにより、腕の振りが強力であったことが妙に印象に残り、気になる存在となった。そのため、私は翌日も勝ち進んだ鷲宮が試合をするひたちなか球場に向かうことにした。


 鷲宮は第2試合で早稲田実業学校と対戦する。まずは、第1試合で横浜高校のエース・涌井秀章(現西武)や3番サードの石川雄洋(現DeNA)といった有望選手チェック。第2試合で早実の選手をひと通り見たところで、私は鷲宮のブルペンから発する増渕の“匂い”に惹かれて、ネット裏から移動。投球が正面真上から見られる外野ポール付近の席に腰を下ろしていた。
 ブルペンで投げる増渕を間近で見る。私の感覚的な見立てでは、当時の増渕の身長は176〜178センチくらい。サイドスローということで、実際の球速は130キロ程度に思われた。しかし、やはり投げているボールは他の高校生にはない力感があり、鋭い腕の振りとともにちょとした怖さがある。
 それに、近くから見えた面構えもいい。当時はまだ華奢な出で立ちで、ストッキング付近のユニホームがブカブカしていたので、まだ中学生の「悪ガキ」という雰囲気だった。だが、その風貌と「行き先はボールに聞いてくれい!」と言わんばかりの投球がすごくマッチする。だから、すごくやりそうな選手に思えた。今回公開している当時の写真も、その空気に触発されて夢中でシャッターを押したものである。こういうことは、そう頻繁にあることではない。


 とはいえ、結局この試合では増渕に登板機会がこないままチームは敗戦。この時点で増渕のことを、ドラフト上位候補として目をつけた者など誰もいなかったはずである。私にしたって、「先行き、面白いな」と思っただけで、まさか2年後にあのような立派な姿に成長するとは想像していなかった。

◎3年生になって驚くほど体格が上積みされる

 だが、増渕はチームが代替わりして以降、2年生エースとして活躍し出し、知られた存在になっていく。3年生となった06年春には、すでにドラフト候補となっていた。2年前の姿を見ていた私は「やっぱり出てきたか」ともちろん嬉しかったが、評判を聞く中に「体格がすごくいい」という話が多いのが気になった。確かに投げっぷりが良く球威もあったが、最初に体格の話が出るほど大きかったっけ? それを確認するため、今度は正真正銘、増渕を一番の目当てとして、5月の埼玉県大会に足を運んだのである。
 そこで見た増渕ときたら…。上半身にすごく厚みがついていて、以前とはふたまわり、いやそれ以上にデカくなっている! ハッキリ言ってまったくの別人だった。そして、投げるボールの勢いも、それに比例してとんでもなくアップしていた。この日は春日部共栄高校が相手で、増渕は1点リードの3回からリリーフで登板。1番・山口将司(現JR東日本)、3番・坂井貴文(現東京ガス)、4番・斉藤彰吾(現西武)と好打者が並ぶ春日部共栄打線を相手にバッタバッタと三振の山を築いていった。試合そのものは一時同点とされ、鷲宮がサヨナラで試合を決める辛勝ではあったが、体と球威はすでに圧倒的。高校生のレベルを越えるスペックに達していた。


 その後、関東大会も経験したこともあり、私は「これは少々小細工されても、甲子園行けるわ」と思ったのだが、実際にはそう甘くはなく、鷲宮は夏の埼玉大会決勝で浦和学院高校に敗れている。だが、増渕は5回戦の市立浦和高校戦でノーヒットノーランを達成するなど、その存在感は圧倒的で、秋の高校生ドラフトではヤクルトから1巡目指名を受けて入団。1年目からの活躍はご承知のとおりである。

◎プロでの本格的な一本立ちに期待

 ただ、この増渕。残念ながら、プロ入り後はまだ高校時代の衝撃に見合う活躍には至っていない。振り返ってみれば、素材の良さだけでプロに行ってしまった感もあり、勝負の世界の厳しさにまだ苦労しているようにも見受けられる。
 だが、このまま伸び悩むだけで終わってしまうとも思わない。最初に見たあの「悪ガキ」さながらの顔は忘れられないし、その後2年であれだけ体つきが豹変した選手もほかに見たことがない。当時を知る者としては、そのとき感じたオーラを信じたい。
 今の足踏みを糧として、いつか本当の意味で一本立ちする日が来ることをこれからも密かに期待している。



文=キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事を野球雑誌にて連載つつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』(10月5日創刊)を軸足に活躍中。

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