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「どえらい監督がいたもんだ」〜常識外の闘争心で高校野球に人生を燃やした男たち

 今年は甲子園の歴史に名を刻んだ2人の名監督が亡くなった。1人は原貢元監督。1965年、炭坑不況が斜陽の影を落とす福岡県大牟田市から三池工業を率いて、夏の甲子園初出場初優勝。原監督が指揮する「ヤマの子供たち」の快進撃に地元はむろん、不況に苦しむ全国の炭坑町が沸いた。大牟田市民が集った優勝パレードの熱狂は今でも語り種だ。

 持ち前の強気でならす勝負師ぶりに磨きをかけた原貢元監督は、1970年にも東海大相模(神奈川)で夏の甲子園を制覇。1974年からは息子・辰徳(現巨人監督)との親子鷹で甲子園を席巻した後、1980年代半ばから東海大の監督・総監督としてアマチュア球界を牽引したのはご存知の通りだ。巨人・原辰徳監督は今秋、セ・リーグの優勝を決めたインタビューで「まだまだと言っていると思います」と、目に涙を浮かべて亡き父を偲んだ。

 そしてもう1人は、夏の甲子園が終わって間もない9月2日に67歳で急逝した済美(愛媛)の上甲正典元監督。



 甲子園では春優勝2回、夏準優勝1回という戦績を誇る四国の名将は、今では珍しくなった「教員ではない監督」の1人だった。高校野球人生の最後に二人三脚で歩んだ投手が怪物右腕・安樂智大だが、2人の間には3つの約束があったという。

 それは「甲子園優勝」、「160キロを出すこと」、「ドラフト1位でプロ野球に行くこと」。故障を抱えた右ヒジへの不安が払拭されぬものの、安樂は11月23日に開かれるドラフトの1位候補に堂々と名を連ねている。「甲子園優勝」と「160キロ」は果たせぬ約束で終わったが、たった1つ残された3つ目の約束は成就されるのだろうか。

(この2人の道程については『野球太郎 No.012 ドラフト直前大特集号』に掲載された「拝啓安樂様」=文・谷上史朗=をご覧いただきたい)

 『野球太郎N0.010 高校野球監督名鑑号』には、少ないページ数ながら、現在活躍中の監督たちに、「高校野球の真髄」を楔(くさび)のように打ち込んだレジェンド監督たちの名鑑も載っている。今に繋がる高校野球監督のDNAを紐解く「肝心要」として。今回はここから、鬼籍に名を連ねるレジェンド監督のエピソードやキャラクターをいくつかあげてみよう。

●蔦文也(池田/徳島)


 やまびこ打線で甲子園に革命を起した阿波の攻めダルマ。ベンチからのサインは「打て! 打て!」の強気一本やり。金属バットの特性をフルに発揮した驚異のパワー野球は、それまでの戦法を根底から覆した。また「ワシから野球と酒を取ったら何も残らん」というほどの酒豪監督としても愛されていた。

●斉藤一之(銚子商/千葉)

 気性の荒い漁師町・銚子の高校野球にふさわしい豪快な「黒潮打線」の生みの親。1973年夏、「怪物・江川打倒」に執念を燃やす斉藤監督が、雨中延長12回の激戦の末に作新学院(栃木)を下した1戦は甲子園史に残る名勝負だ。現在は息子の俊之が銚子商の監督を継いでいる。

●尾藤公(箕島/和歌山)


 普段は厳しくとも、試合中はのびのびと選手にプレーさせるべきだと気づいたことが、「尾藤スマイル」へと繋がった。この選手との接し方は、後に続く全国の名将たちに大きな影響を与えた。1979年夏、星稜との「延長18回」の死闘は有名。2013年夏には、息子・強監督率いる箕島が久しぶりに甲子園に登場。オールドファンを喜ばせた。

●栽弘義(小録〜豊見城〜沖縄水産)

 高校野球を通じて本土に挑み続け、沖縄の人々を鼓舞した情熱家。時に常軌を逸した猛練習で批判されることはあったが、1年生大会を発案するなど、沖縄野球を発展させた最大の功労者であることに異論はない。1990年、1991年夏の2年連続準優勝は高校野球ファンの胸を熱くさせた。


 この名鑑の他にも、2011年に勇退したものの、現在も元気に野球部を見守る木内幸男元監督(常総学院/茨城)のロングインタビューも載っているのでご一読を。ワンポイントリリーフで流れを手繰り寄せたPL学園(大阪)戦、まさかの強攻策でダルビッシュ有を攻略した東北(宮城)戦などを通して語られる「木内マジック」の種明かしは読み応え充分。また「職業監督」として勝利至上主義を貫いた理由は、「教育か勝負か」という高校野球永遠のテーマを考える上で一級の言質となっている。


 今の高校野球はずいぶんとスマートになった。清濁をあわせ飲み、常識外・規格外の闘争心で高校野球にぶつかっていった昭和のレジェンド監督にとっては、窮屈な世界かもしれない。オールドファンにとっても然りだろう。ただ、「どえらい監督がいたもんだ」と思いを馳せながら、現在活躍する高校野球監督のイズムの中に、レジェンド監督が残したDNAを探してみるのも一興だ。


■ライター・プロフィール
山本貴政(やまもと・たかまさ)/1972年3月2日生まれ。音楽、出版、カルチャー、ファッション、野球関連の執筆・編集・企画・ディレクションを幅広く手掛けている。また、音楽レーベル「Coa Records」のディレクターとしても60タイトルほど制作。最近編集を手掛けた書籍は『ブルース・スプリングスティーン アメリカの夢と失望を照らし続けた男』、編集・執筆を手掛けたフリーペーパーは『Shibuya CLUB QUATTRO 25th Anniversary』、ディレクションを手掛けた展示会は『Music Jacket Gallery』(@新宿高島屋)など。

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