シーズン24勝0敗の伝説を手土産に、海を渡った我らが田中将大。ヤンキース入りを発表した当時、大きな話題となったのが破格の契約金だ。7年総額1億5500万ドル(約162億7500万円)と、夢のような契約が成立するのがMLBであり、NPBとは比較にならないこの圧倒的なスケール感の違いこそが、魅力でもある。
今週から5回に渡って、こうしたMLBの魅力をたっぷりと紹介していくこのコーナー。第1回目は冒頭でも触れたMLBの契約金事情についてクローズアップしよう。
ヤンキースが田中に提示した7年総額1億5500万ドル(約163億円)は、MLB史上でも18番目の大型契約。投手ではカーショー(ドジャース)、バーランダー(タイガース)、ヘルナンデス(マリナーズ)、サバシア(ヤンキース)に続く史上5番目の巨額契約となった。
ヤンキースは田中がプロ1年目の2007(平成19)年にスカウト調査を始め、2009年WBCでの登板を契機に、獲得を目指していたという。それにしても前出の4投手は全員、サイ・ヤング賞の受賞経験者であり、田中はMLBで1球も投げていないにも関わらず、MLBの大投手たちと肩を並べる契約金を手にしたことになる。
「約163億円」と言われても、すごすぎてよくわからない……と感じるだろう。この数字をNPBの年俸に関する数字と比較しようとすると、一番近くなるのが、2013年のセ・リーグ6球団に所属する選手の総年俸(外国人・育成選手を除く)の144億5900万円になる。田中は7年総額の契約となっているが、この総年俸を軽く超えている。これだけでも、MLBの契約金事情はNPBのそれとは比較にならないことがわかるだろう。
さらに年俸だけではなく、MLBの契約で話題になるのがその特典だ。田中の場合は日本からの引っ越し費用として3万5000ドル(約368万円)、家賃として年間10万ドル(約1500万円)、田中の通訳に85000ドル(約893万円)の給料、日米間のファーストクラス航空券などの諸経費は、全て年俸とは別に支払われるという。
ここで田中が入団するヤンキースについて、おさらいしよう。MLBのワールドシリーズ27度優勝の超名門球団のヤンキースが創設した1901年は、日本でいうと明治34年だから、その歴史はケタ違い。1920(大正9)年にはライバル球団のレッドソックスから、あのベーブ・ルースを獲得して強くなり、1921(大正10)年にアメリカン・リーグ初優勝。1923(大正12)年にワールドシリーズ初制覇を飾り、長きに渡って黄金期を形成。ルースのほかルー・ゲーリッグ、ジョー・ディマジオら多くの“レジェンド”選手を生んだ、MLBで最も威厳のあるチームだ。
ヤンキースと日本人選手の関わりは深い。かつて松井秀喜が所属していたことはご存じの通りで、今シーズンも黒田博樹とイチローが所属しており、1997(平成9)年の伊良部秀輝以降、多くの日本人選手を獲得してきた。2006(平成18)年オフには約2600万ドル(当時のレートで約30億円)のポスティング料と5年2000万ドル(約23億円)の大型契約を結んだ井川慶(現オリックス)も在籍。しかし通算2勝4敗に終わり、3年目には登板機会すら与えられずに終わった。
MLB球団のなかでも屈指の歴史と伝統を誇るヤンキース。他チームに比べてファンやメディアの数はケタ違いに多く、米国での注目度は格段に高い。だからこそ、豊富な資金力を手にすることができるのだ。その一方で、結果が出なければメディアやファンの容赦ないバッシングが待っている。
特に、高年俸選手がその年俸に見あうだけの結果を残さなければ、徹底的にバッシングする傾向が強い。これは野球に限った話ではないが、田中も成績が上がらず、故障などで長期離脱するようなことがあれば容赦なく「この契約は失敗だった」とやり玉に挙げられることは間違いない。
今季もヤンキースに所属し、ニューヨークのメディアやファンを熟知しているイチローは、田中の契約に関して「ヤンキースがどんなオファーを提示したかというよりも、(田中が)このオファーを受けたことへの覚悟と自信に敬意を払うべきだろう」とコメント。ヤンキースで超大型契約を結ぶことは、同時に計り知れないプレッシャーをも背負うことになり、それがいかにすごいことかを伝えたかったと汲み取れる。