現在、世間一般でMVPの候補に挙げられているのは、以下の選手たちだろう。
ジョンソン、新井貴浩、菊池涼介、鈴木誠也。
だが、マニアックな広島ファンがあげるMVPは一味違った。
30代の男性がMVPに推すのは、中継ぎ、先発とフル回転したヘーゲンズだ。
「序盤の中継ぎの不調、後半の先発不足。いずれもヘーゲンズの活躍でしのいできた。ヘーゲンズがいなかったら優勝は絶対になかったと断言できる」
その通り、今シーズンのヘーゲンズはチームの危機を幾度も救ってきた。
開幕を2軍で迎えたヘーゲンズが1軍に上がってきたのは4月22日。中継ぎの不調で試合を落とすことが多かった序盤の広島。その穴にピンポイントではまったヘーゲンズは中継ぎとして活躍の場を得た。
得意のカットボールでゴロを打たせる投球は、鉄壁の守備力を持つ広島でこそ輝きを増す。気がつけば勝利の方程式の一角を担い、初夏の快進撃を演出していた。
その後、ローテーション投手が続けて離脱したことで、先発として白羽の矢が立ったヘーゲンズ。勝利の方程式を崩すのは勇気のいる決断だったが、その決断にヘーゲンズは見事に応え、先発で4戦3勝と見事な結果を残している(9月6日現在)。
今シーズンの広島に起きた危機的状況を2度も救ったヘーゲンズこそ真のMVPなのでは!? 数字では見えない貢献度が、マニアックなファンの心をくすぐりMVP候補に推されたようだ。
次に名前が上がったのは守備、走塁のスペシャリスト・赤松真人だ。
「今年のターニングポイントとなる試合を決めたのは赤松だった。物議を呼んだあの“コリジョンサヨナラ”から、赤松の足同様にとてつもない早さでカープが上がっていった」
そう語るのは40代の男性。6月14日の西武戦。赤松の放った1打は、今シーズンから導入されたコリジョンルールの影響で、判定が覆る幸運なサヨナラ勝ちを呼び込む。この試合を起点に始まった34年ぶりの11連勝で、広島は独走態勢を築いていった。
このコリジョンサヨナラだけではなく、時として大きな仕事をやってのけるのが赤松の魅力。しかし、大仕事もさることながら、赤松の最大の魅力は脚力にある。
今シーズン、飛躍的に得点が伸びた広島。その原動力のひとつには、これまた飛躍的に伸びた盗塁数がある。そして、その陰に赤松の存在があったのは、ファンのなかでは有名な話だ。
赤松の盗塁技術、洞察力はチーム随一。その技術を惜しむことなくチームに浸透させたことこそ、盗塁数と得点数が増加した一因と見られている。
当然ながら、自身が代走出場時、相手チームに与えるプレッシャーも驚異的だ。
現在、15得点はチーム10位。出場数85試合、0本塁打、21安打の選手がチーム上位の得点を挙げている事実こそ、赤松の走塁技術の高さを裏づけている。
今シーズンの躍進の陰には赤松がいた!
この他にも、ベテラン捕手・石原慶幸や、今村猛らをMVPに推す声もあった。彼らのような脇を固める選手たちをMVPに推す声が挙がることが、今年の広島のよいチーム状況を象徴しているように思えてならない。
いつでもヒーローが誕生し、脇を固める選手が仕事を全うした。その総合的な強さが、今期の広島の躍進に繋がったと言える。
今回、名前の挙がった選手たちのMVP受賞は残念ながらないだろう。しかし、彼らの活躍なくして今シーズンの快進撃はなかった。その事実はファンの誰もが知っている。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)