まず指摘したいのは、スポーツ紙や野球中継などで紹介されるバント成功率は、実像を捉えていないということ。
その計算式は打率、防御率のように明確に定義されている訳ではない。「投犠」や「捕バゴ(捕手へのバントゴロ)」という結果のみで判断する算出も多く、そのなかには「三バ安(三塁へのバント安打)」といったバント安打は含まれないこともある。
また、結果が「中飛」や「一ゴ」でも、その過程で、例えばストライク2つをバントファウル、バント構えの見逃しで奪われ、追い込まれてやむなく打って凡退した事例もある。この場合、従来の算出ではサンプルの対象外になるが、これとて事実上のバント失敗打席だ。
2度バントファウルで送れず、強攻策に切り替えてヒットになったケースもある。しかし、あくまでも結果論。バント作戦を遂行できなかった事実には変わりがない。
今回、前述の「打席途中でバント失敗の結果凡打、あるいは安打の場合もバント失敗」という考えの元、楽天の「真のバント成功率」を算出した。その結果は下記になる。
【2015年】
従来のバント成功率:80.2%
真のバント成功率:68.1%
【2016年】
従来のバント成功率:82.4%
真のバント成功率:74.7%
いずれも前年比プラスの結果で、楽天のバント作戦は改善されている。注目したいのは、変動値が大きい「真のバント成功率」だ。
この結果から、昨年と比べて今年の楽天はバントファウルやバント見逃しストライクで犠打できずに追い込まれてしまったケース自体が少なかったことが確認できる。精度が上がったとは言えそうだ。
「走者一塁」「走者一、二塁」という塁上の状況別での「真のバント成功率」も調査した。
【走者一塁】
2015年(真のバント成功率):76.3%
2016年(真のバント成功率):78.3%
【走者一、二塁】
2015年(真のバント成功率):50.0%
2016年(真のバント成功率):62.1%
最もバントの機会が多い走者一塁の数値は微増にとどまった。しかし、三塁封殺リスクがあるため最もバントが難しい走者一二塁での成功率は約12%増。大幅な改善が見られた。
この成果もあり、全体の「真のバント成功率」も前年比アップになったのだ。昨オフから取り組んできたバント練習が実を結んだと言える。
今回は筆者が定点観測する楽天だけにとどまる調査だったが、それでも「決めて当たり前」と言われるバント作戦の認識に一石を投じることができたと思う。
「従来のバント成功率」で判断すると実像を見誤る。スポーツ紙や野球中継、野球関係者の間で「真のバント成功率」が広がることを期待したい。
文=柴川友次(しばかわ・ゆうじ)
信州在住。郷里の英雄・真田幸村の赤備えがクリムゾンレッドに見える、楽天応援の野球ブロガー。各種記録や指標等で楽天の魅力や特徴、現在地を定点観測するブログを2009年から運営の傍ら、有料メルマガやネットメディアにも寄稿。