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「野球にまつわる僕の夢」盲目のスーダン人、モハメド・オマル・アブディン

日本語が巧すぎて、野球に詳しすぎる盲目のスーダン人、モハメド・オマル・アブディンさんが語る日本野球の不思議! 前編「愛するわが広島カープ」に続き、後編ではスーダン人から見た「野球文化」について語っていただきます。

【日本のラジオ局は暇だなぁ】

 野球は、日本に来るまで存在すら知りませんでした。世界的にはあまり普及していないですからね。だから、19歳のときに日本に来て、ラジオをつけたら毎晩やっていてビックリしたんです。

 スポーツだ、というのはわかったんだけど、どんなスポーツなのかは聞いててもよくわからず、「日本のラジオ局はよっぽど暇なんだなぁ。毎晩毎晩、同じゲームを放送してさ」と思ったくらいです。ひとつの試合を何度も再放送していると勘違いしたんですね(笑)。

 その後、盲学校で「盲人野球」を体験する機会があって、そこで初めて野球のルールを知りました。パラリンピック種目にもなっている「盲人サッカー(ブラインドサッカー)」の場合は、ボールの中に鈴が入っていて、その音を頼りにプレーするんですが、「盲人野球」のボールには鈴も何も入ってないんですよ。ボールが地面を転がる音だけで判断するんです。当然、真っすぐしかないと思うでしょ? 背中のほうに行ったなぁ、というボールが「キュッ」と変化してストライクになるんです。あれはビックリしますよ。

 でも、「盲人野球」に出合ったおかげで、野球のルールを覚えることができました。そこから、ラジオの野球中継を聞くのも楽しくなっていきましたね。ルールや楽しみ方がわかってくると、「野球って日本の文化のひとつだな」ということを感じました。周りも野球の話をするから、溶け込むために必要だったし、実際に野球のおかげで語彙もすごく増えましたから。「あの娘、僕のストライクど真ん中だね」とか、「(ギャグが受けた時に)今のは場外ホームランだったね」とかね(笑)。



【野球中継は日本語の勉強になる】

 ラジオの野球中継は、アナウンサーの描写が楽しくて聞いています。「阿部慎之助(巨人)、打ったぁ! どうだ!? 大きい! センターバック、バック。どうだ、入るか? こっちを向いた。入ったぁー」っていう、ドキドキ感? それが面白いです。だから、NHKよりも民放のほうが好きですね。これがNHKだと「阿部が打った。大きい。ホームラーン」……これじゃ、つまらないですよね。中立的な立場を取らないといけないからしょうがないとは思うんですけど。

 ほかに野球が面白いなぁと思うのは、「間」がたくさんあることですね。その「間」を埋めるために、実況アナウンサーがいろんな話をするのが僕には面白いんですよ。日本語の勉強にもなりますから。

それと、なぜかは知りませんが、アナウンサーってダジャレ好きな人が多いですね。でも、解説の人はダジャレに気づかないことが多いんです。特に若松勉元監督(元ヤクルト)! 彼、すっごい鈍いですね。全然、気づかない(笑)。「ここで代打に前田智徳(広島)が出る可能性は、大だ!」ってアナウンサーが実況しても、「そうですね。可能性は大きいですね」って、普通に返しますから(笑)。

 あと、僕は以前、福井県にいたんですが、やっぱり地元若狭高校出身の川藤幸三さん(元阪神)は人気でしたね。でも川藤さん、アナウンサーに「この場面、バッターはどうやったら攻略できますか?」と聞かれても、「そうですね。バットを振らんといかんでしょうなぁ」とか、技術と関係ないことばっかりしゃべってる。そんなんだから、(現役生活)18年でヒット200本ちょっとしか打てないんだよね(笑)。

 それだったら僕にでもできるから、一度解説をやらせてくれないかなって思いますよ。「今の阿部選手の肩の開き方じゃいけませんねぇ。あれじゃ、外のスライダーになかなか合いませんよ」って、“盲想”解説をしたいんです。

【夢は広島優勝、解説、始球式、そして條辺のうどん屋】

 僕、プロ入りしても、ケガで駄目になった選手がその後どうなったかっていうのを知りたいんです。昔、巨人に條辺(剛)って投手がいたじゃないですか。敵チームながら、僕は彼を「アッパレ!」って思っていたんです。いつも一番厳しい場面で投げさせられて、しかも次の日もまた次の日も投げさせられて、そんな感じでずーっとこき使われて。これは絶対にケガする! と思っていたら案の定ケガをして。

 彼は今、どこで何をやってるのかなぁ……え!? 埼玉でうどん屋をやってるんですか? うわ、行ってみたいなぁ。彼が自分でうどんを作ってるの? ホント!? すごいスナップ効かせてるんだろうねぇ(笑)。

 これで、日本にいる間の夢がまたひとつ増えちゃった。広島の優勝を見ること。解説をやってみたいということ。條辺のうどん屋に行くこと。あとは……いつか、始球式をやってみたいですね! ナックルボールとかどうかな? 魔球を投げたいね(笑)。


▲もっとアブディンさんのことを知りたくなったら、『わが盲想』(ポプラ社)をお読みください。


■ プロフィール
モハメド・オマル・アブディン/1978年、スーダンの首都ハルツームに生まれる。生まれた時から弱視で、12歳の時に視力を失う。19歳の時、視覚障害者を支援する団体の招きで来日、福井の盲学校で点字や鍼灸を学ぶ。その後、ふるさとスーダンの平和を築くための学問を学びたいとの痛切な思いから、日本の財団から奨学金を受け、東京外語大大学院で研究者となる。
犠牲者200万人、2005年まで20年に及んだスーダンの内戦の歴史を検証しつつ、2011年の南部独立後のスーダンを見守り、祖国平和のために発言を続ける。ブラインドサッカーの選手としても活躍しており、『たまハッサーズ』のストライカーとして日本選手権で優勝を3回経験している。ツイッター/@Abdinkun

文=オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。また「幻冬舎WEBマガジン」で実況アナウンサーへのインタビュー企画を連載するなど、各種媒体にもインタビュー記事を寄稿している。ツイッター/@oguman1977

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