歴代成績12球団ワースト2位。その不名誉な記録から広島ファンは交流戦の存在に怯えていた。
しかも、だてに首位で交流戦に突入してしまうものだから、2014年の悪夢(9連敗で首位陥落)まで思い起こされ、さらなる恐怖に震え上がってもいた。
だが終わってみれば11勝6敗1分けと、2009年以来の勝ち越しを決め、順位もソフトバンク、ロッテに次ぐ3位と大健闘。その結果、リーグ順位の首位も変わらず、広島以外勝ち越しができなかった他のセ・リーグ球団を引き離して独走態勢に入っている。
鬼門と呼ばれた交流戦を、まさかの貯金で終わることができた奇跡に、気の早いファンは優勝の二文字を確信している。
他球団ファンには「まだ半分も終わってねぇよ! 去年のDeNAをわすれたのか?」。
そう言われてしまいそうだが、広島にとって鬼門の交流戦を貯金で突破できたことは、そう思わせるほど大きな出来事なのだ。
しかも、11個の勝ち星の内4勝が劇的すぎるサヨナラ勝ち。6連勝フィニッシュを見せられては、広島ファンなら優勝を強く意識するのも当然ではないだろうか?
劇的勝利の中でも、際立っていたのが鈴木誠也の大活躍だろう。
6月17日から19日のオリックス戦では、初戦、2戦目と2試合連続のサヨナラ本塁打。これは、史上10人目の偉業で、広島では1984年の長嶋清幸以来だ。ちなみに1984年は日本一にも輝いているだけに、縁起が良い。
6月20日の試合でも3試合連続となる決勝の本塁打を放った鈴木。劇的な勝利もさることながら、期待の大器がついに覚醒した喜びも大きい。
緒方孝市監督をして「神ってる」とまで言わしめた、鈴木のミラクル弾。優勝の機運が高まる時は、得てしてニューヒーローが現れるもの。
その他にも、苦節4年で、初本塁打を放った下水流昂ら、日替わりでヒーローが出現したことも、優勝への機運を高める要因となっている。
とはいえ、優勝を成し遂げるには不安材料もたくさんある。まずはここまで、チームの上位進出の原動力となった打撃だ。
交流戦前までは、リーグ1位のチーム打率.273も、交流戦で.242と低迷したことにより.267まで低下。その爆発力に陰りが見え出してきている。また、チームをけん引していた主砲・エルドレッドの負傷による離脱もチームにとって痛いところ。ペナントレース再開後の得点力に対し、やや不安が残る。
投手に関しても不安は多分にある。それは、シーズン前からウイークポイントと言われてきた中継ぎ投手だ。
中継ぎエースのジェイ・ジャクソンは試合数の約半数34試合に登板。抑えの中崎翔太は31試合。今村猛、ヘーゲンズも28試合登板。全員が登板試合よりも多いイニングを投げている。
現状でも、磐石とは言い難い中継ぎ陣。疲労による負傷は避けたいところ。この層の薄い中継ぎ陣が優勝への一番の不安材料といっても過言ではない。
不安要素をあげればキリがないが、鬼門を突破したことで視界が良好なのは間違いない。機運が高まっていることもまた事実だ。
12球団で最も優勝から遠ざかっている広島。今年こそは、26年ぶりの悲願を信じてみてもいいかもしれない。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)