かつては、握りなどは“企業秘密”だった変化球。しかし時代は進み、最近では、雑誌で現役投手の変化球の握り方の特集が組まれたり、ネットメディアで動画とともに詳細に分析されたりと、一般的にもその秘密の実態が知られるようになった。
もちろん、プロの投手も日々研究し、持ち球に磨きをかけ、より有効な変化球の習得を目指している。そんな“変化球界”の現状を考察してみたい。
このところの“変化球界”で幅を利かせているのが、カットボールに代表される打者の手元で小さく変化するボール。空振りを取るというよりは、バットの芯を外したり、詰まらせたりしてゴロを打たせるのが主な目的だ。
握りは、縫い目に人差し指と中指を垂直にかけるストレート(フォーシーム)から、ややずらすのが一般的。その縫い目にかかる指の角度やリリース時の力の入れ具合によって変化の幅が違ってくる。
昨季、鮮やかな復活を遂げた松坂大輔(中日)は、メジャー仕込みのカットボールをコーナーに投げ分け、打者を料理するシーンが目立った。
また、3年連続沢村賞で、いまや日本を代表する投手となった菅野智之(巨人)もカットボールを有効に使う。菅野は、ストレート、スライダー、カットボールが投球の大半を占める投手だが、その3種類を、球速と曲げ方に変化をつけながら打者を手玉に取っている。
ほかにも、カットボールを使う投手は多い。それだけ一般的になったということだろう。
その一方で、見直されている変化球といえばカーブだろう。古くは江夏豊(元阪神ほか)や江川卓(元巨人)、工藤公康(元西武ほか)、桑田真澄(元巨人ほか)らが得意としていたように“昭和の変化球”といったイメージがあるが、最近では武田翔太や石川柊太(ともにソフトバンク)、岸孝之(楽天)などが効果的に使っている。
とくに石川のカーブは「パワーカーブ」と呼ばれ、人差し指と親指で挟むような握りから、回転をかけて投げる。変化が大きい割に球速は130キロ近く出ており、石川の場合は、そこに150キロのストレートがズドンとくる。苦しめられる打者が続出しているのもうなずける。
また、カーブの中でもやや特殊なパターンとなるのがナックルカーブだ。
このナックルカーブは、人差し指1本、または人差し指と中指の2本を起こして折り曲げるようにして握り、カーブのように回転をかけて投げるもの。曲げた指の先は、ツメをボールの縫い目に食い込ませる人もいれば、第一関節を手前に巻き込んで指の甲側をボールに押し当てるように握る人もいる。このあたりは投げる人のフィーリングによる。
通常のカーブよりもブレーキが効いた変化を見せるので、低めに決まれば空振りも奪えるウイニングショットとなる。
森唯斗、バンデンハーク、サファテ(ともにソフトバンク)、ディクソン(オリックス)、今季からヤクルトに復帰した五十嵐亮太らが持ち球としている。
さらに、チェンジアップもかなり広まっている球種だ。
本来は、ストレートと同じように腕を振りながら、ボールを抜いて投げるのがチェンジアップ。打者は、ストレートと思って振りにいくと、想定したタイミングよりも遅れて球がくるため、泳がされてしまい、空振りや打ち損じとなってしまう。
ただ、握りと腕の振り方次第では、曲がりながら落ちるなどの変化を見せることもあって、「落ちるボール」という認識も定着しつつある。
一般的な投げ方は、ボールを5本の指でつかみ、中の3本の指は立てるようにして、そこから抜くような感じで腕を振る。チェンジアップの使い手として知られた杉内俊哉(元巨人ほか)は、人差し指と薬指で軽く挟むように握って、中指のところからボールを逃がすような投げ方だった。
さらに、親指と人差し指で挟みつつ抜いて投げるサークルチェンジ、中指と薬指の間から抜くバルカンチェンジなど、派生系も存在する。
例えば山崎康晃(DeNA)が決め球として使うツーシーム。ボールの縫い目に沿って浅く挟む感じで投げるため、「あれはフォーク」という解説者も多い。
また、スライダーと一口に言っても、投手ごとに変化のパターンは様々で、タテスラ、真っスラ、スラーブ、高速スライダーなど、呼び方も多岐にわたる。厳密に線引きするのは難しい。
ファンとしては、「今のはスライダーかな?」「いや、カットボールじゃない?」などと思いを巡らしながら楽しむのがいいのかもしれない。
文=藤山剣(ふじやま・けん)