野球がない日はつまらない! 試合が気になって仕事が手につかない! そんな熱烈プロ野球ファンの生態を調査する連載企画『そこまでやる!? プロ野球ファンの生態レポート』。今回はスペシャルゲストとして女優、タレントの及川奈央さんが登場! 熱烈なカープファンとして知られる及川さんにカープの魅力、球場観戦の楽しみ方、そして大の巨人ファン……という旦那さんとのプライベートなどを聞いた。
及川さんのご両親は広島出身。及川さんも物心がつく前の幼少期は広島で育った。家族で東京に引っ越してからは夏休みの度に祖父母が暮らす広島に帰郷。両親、祖父母とも熱心なカープファンだったため、及川さんにとってカープは身近な存在だったという。
少女時代の及川さん、そして家族が好きだった選手は? 及川さんは一つのサインボールを取り出しながら2人のレジェンドの名を挙げる。
「衣笠(祥雄)選手に高橋(慶彦)選手。高橋選手は一度お会いしたことがあるんですけどカッコいいですよね。関係者の方を通じていただいたサインボールをずっと大切にしています。衣笠選手は強い、頼もしい、男らしい。もう絶対的な存在です。笑顔も素敵。どの選手も素敵ですけど、最初に素敵だなと思った方です」
ファンを愛し、ファンに愛され、野球を愛し、野球に愛された鉄人・衣笠祥雄。及川さんはカープにハマり、過去の映像を通してカープをどんどん知っていくうちに「知れば知るほどやっぱり素敵だな」と魅了されていった。なお、お父さんは昔から持っている衣笠のサインボールを大事にしており、及川さんはそのサインボールを飾るケースをプレゼントしたとのこと。及川家のカープ愛がつなぐ及川さんの親孝行も素敵です。
ちなみに中学生の頃の及川さんはカープ……ではなくヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ1969)のファン。ときは華々しくスタートしたJリーグで圧倒的な強さを見せたヴェルディ黄金期。カズ(三浦知良)、ラモス(瑠偉)、武田修宏らスター選手がきらめいていた。筆者がそのことを告げると……。
「よくご存知で(笑)。家族みんな、特に母が野球もサッカーも、何でもスポーツ観戦が大好きだったので、国立競技場でヴェルディを応援していたんです。そのなかで野球ならばカープ。元々故郷の愛着のあるチームですが、20代半ばからどっぷりハマっていきましたね」
今をときめく「カープ女子・及川奈央」はこうして誕生した。当時のカープは2000年代中盤の低迷期。及川さんには「今、弱いからこそ応援したい!」という気持ちと、周囲に巨人ファンが多いなかで「私は巨人ファンにはなりたくない」という反骨心があった。エースとなった前田健太ら若手奮闘もあり、カープは徐々に力を盛り返してゆくが、カープ愛をさらに決定づけたのは2015年、元エース・黒田博樹の復帰だった。
「最後はカープで終えたいと黒田さんがメジャーリーグから帰ってきてくれて……そんなにすごいチームなんだとあらためて思いました」
復帰した黒田の代名詞は「男気」。この日、昭和のカープの選手のことに触れた際に及川さんは「カッコいいですよね。男気があって」と目を細めた。一見近寄りがたい怖さを醸しながらも人情味にあふれていたカープの選手。泥臭くて一本気。ど根性と反骨心。そんなイズムを色濃く引き継ぐ黒田と及川さんとリンクした。カープから抜けられなくなった気持ち、よくわかります。
及川さんにカープの魅力を聞くと「暖かなファミリー感」という言葉が出てきた。
「神宮球場でよく観戦するんですけど、得点したときには、隣の席の知らないおじさんたちともみんなで輪になってハイタッチ。そういうファン同士の暖かなファミリー感が楽しくて。あと贔屓目ですけど、ベンチの雰囲気が一番いいチーム。そんな空気感が素敵です」
鈴木誠也に菊池涼介と若手の主力が盛り上げ役を買って出ている現在のカープ。今年のキャンプを見ていてもいい空気が伝わってくる。及川さんは「そう!」と膝を叩く。そしてインスタグラムの話になった(本インタビューはキャンプ最終盤の時期に行われた)。
「今年のカープはキャンプ限定のインスタ(※)があるんですよ! ご存知でした!? これまでチーム公式のSNSはなかったから、もう嬉しくて。アップされた動画を毎日見ています。選手の姿が日々の活力です!」
特に元気が出た動画は?
「いっぱいあって選べないんですけど……松山(竜平)選手がご飯をもりもり食べている動画とか(笑)。そういった普段の素の姿が見られるのがいいですよね。鈴木選手が動画を撮られている選手にちゃちゃを入れているところとか、小園(海斗)選手の笑顔とか。ずっと見ていられます。あと、通訳のクレートさん。大好きなんです。あの片言の日本語で和んでいます(笑)」
及川さんが言う雰囲気のよさには、丸佳浩のFA人的補償で巨人からカープにやってきた長野久義も助けられたことだろう。元々、コミュニケーション力と気配り力に長けた長野だが、カープとの相性はバッチリに見える。
「やっぱり『丸選手ロス』は大きくて、心にぽっかりと空いた穴はなかなか埋められなかったんですけど、長野選手が来てくれたのはとても嬉しいニュースで明るい気持ちになれました。長野選手は赤が似合っています。早速、長野選手のユニフォームを買いましたよ」
なお、丸については「カープもカープファンも暖かく選手を送り出すチームであり、そういう人たちだと思っています。私も『巨人でも頑張ってくださいね!』という気持ちです」とのこと。
(※このキャンプ限定インスタグラムは現在、公式インスタグラムに移行)
「今シーズンの期待は長野選手!」と語る及川さん。
早速ユニフォームを購入して応援の準備は万全です
続いて及川さんの球場観戦スタイルや験担ぎを聞いてみた。
「神宮球場と横浜スタジアムで観戦することが多いですね。練習から見たいので早めに球場入りします。験担ぎですか? 靴下まで全身、カープの服や赤い服で揃えます。持ち物もそう。どこのファンでもなくて、一緒に行く友達がいる場合は、その子の服もカープでトータルコーディネートしてあげます。『今日は菊池選手で』とか言って(笑)。あと友達の子どもには、ほっぺにカープ坊やのシールを貼ってあげたり」
「赤」という色がいいのか、友人もみんなテンションを上げて楽しんでくれるという。そして及川さんはお酒が大好き。「球場ではビール!」と笑うが、ビールを買うにあたってはこだわりがあるという。
「私、あまり忙しくなさそうな売り子の女の子から買うようにしているんです。『おじさんたちはあの子ばっかり声をかけてるから、私はそうじゃない子から買おう』って。あのビールサーバーは重いんですよね……うん、みんな頑張ってる!」
及川さんの優しい目線にほろっときます。なお、ビールのお供でお気に入りは横浜スタジアムの名物メンチカツ「ベイメンチ」とのこと。「ベイメンチ」は横浜・野毛の老舗洋食店「センターグリル」が監修した一品。美味しい肴の前では、敵も味方もありません!
本インタビューに出てくる高橋慶彦のサインボールと、この日、持参してくれた及川さん所有のカープグッズ
ここからさらに気になることを。先述の通り、及川さんの旦那さんは熱烈な巨人ファン。初デートは東京ドームでの巨人対広島の試合。座席は巨人サイドで、及川さんは控えめにカープを応援していたという。
その後、初めてきちんと「おつき合いしてください」と言われたときには「私はカープファンをやめられませんが、それでもいいですか?」「一緒に野球を楽しもうよ」という会話が交わされた。とはいえ、一つ屋根の下で展開されるカープ対ジャイアンツとは? カープがリーグ3連覇を果たす一方、ジャイアンツは4年連続でV逸中だ……。
「『僕と一緒になってからずっとカープは調子がいいね』って言われます(笑)。シーズン中盤までは私が『イエー!』とカープの勝利に盛り上がっていると、シーンとして隣の部屋に行ってしまいますけど、シーズンの最後は『カープ頑張れ!』って応援してくれました。この3連覇中はずっとそうでしたね」
そして「旦那さんはずっと巨人ファンなので、この優勝を逃している間は、ちょっと見ているのが辛かったですね……」と伴侶への気遣いを見せる。
今のところ二人が一緒になってから両チームで優勝を争うペナントレースにはなっていないが、もし巨人と中日が優勝をかけて最終戦を戦った1994年の「10.8決戦」のようなギリギリの対決がきたら? と聞いてみた。
「それはいいですね! 『どっちが勝っても恨みっこなしね』と言いながらお互いにカープとジャイアンツを応援したいです。それくらいのギリギリの戦いは楽しみ。だから、巨人はライバルチームですけど、丸選手には活躍してほしいし、こっちは長野選手に絶対活躍してほしい。二人が活躍する優勝をかけた一戦を球場で見たいです」
丸が抜けても「なお強し」の広島。原辰徳監督復帰に大型補強で派遣奪回が必須の巨人。今シーズンは両チームで優勝を争う予想が多い。及川さんと旦那さんの最終決戦もやってきそうだ。
カープにどっぷりハマってから、このところずっと好きなのは菊池だと言う及川さん。初めて買ったユニフォームも菊池だ。一方で「ルナ、ジャクソン、エルドレッドが好き」とも言ってきた及川さんは、「自分が名前を挙げたら、みんないなくなってしまって」と寂しそう。そして「クレートさんは帰らないで!」と続けた後、みんなに期待しつつも、特に期待の選手を挙げてくれた。
「いなくなる選手もいるなか、松山選手は残ってくれました。鈴木選手もいる。あと期待したいのは小園選手。西川(龍馬)選手も好き。西川選手はどんどんよくなっていますよね。坂倉(将吾)選手、中村(奨成)選手も楽しみです。あとは、やっぱり長野選手!」
ここで筆者の頭に浮かんだのは、カープファンがこよなく愛する石原慶幸。昨シーズンは會澤翼に正捕手の座を奪われた感がある、このベテラン捕手を及川さんも好きなはず。でも、名前が挙がらなかった。「私が名前を挙げたら、いなくなる……」ということで、石原の名は除外されたのか? 「やだぁ……。もちろん好きですよ。チーム最年長ですけど、まだまだ期待したいです!」。なお、石原のチャームポイントはマスクから覗く優しい目が好きとのことです。
カープファンとしての次の夢も、あらためて聞いてみた。
「日本一ですよ! 3連覇したのに……。日本一になったカープを見たい。そのときに黒田さん、新井(貴浩)さんが解説席にいてほしい! 2016年に優勝を決めてお二人が抱き合っている姿……カープファンはみんな泣きましたよね。ドラマみたい。本当にすごかった」
ちなみに昨シーズンのソフトバンクとの日本シリーズ、カープの敗因を尋ねてみた。
「柳田(悠岐)選手でしょ。強すぎです。あと甲斐(拓也)選手の甲斐キャノン。だって盗塁を何度しても間に合わないんだもん。すごすぎでした。まだソフトバンクが上手でしたね」
走っても走っても刺されるのに、まだ走る。盗塁のサインを送り続ける緒方孝市監督の攻めの姿勢が話題を読んだが、及川さんはそれを「よし!」とする。
「カープっぽい。緒方監督ぽい。当たって砕けろで攻めてくれる方がいい。大興奮しましたもん。だけど、次々と失敗して……。だからこそ、今年はリベンジしてほしいです。また、去年は『新井さんを日本一に』という気持ちもあったから、日本一を逃して心が折れたんじゃないかと心配していたんですけど、みんなしょんぼりしていない。黒田さん、新井さんの背中を見てきた選手たちは『まだまだいける』と思っているはずです」
最後にカープを応援する日々のなかで、及川さんが得る効用を聞いた。
「故郷のチームなので、同郷の方に会えるのがパワーになります。負けても『また明日じゃね』って言い合える仲なので。みんな暖かくて普通に話ができる。1人でも球場に行きたいです」
「丸ロス」のなか、奇しくも今シーズンの開幕戦を広島は巨人と戦った。その試合、エースにならねばならぬ男・大瀬良大地は丸から4奪三振を奪ってみせた。丸も心中、思うところが大きかっただろう。1984年以来となる広島の日本一への道は、今始まったところだ。もし、広島が巨人との決戦を制して4連覇を達成したら。そして日本一になったら。そのとき、また及川さんに胸中を聞きたい。
持参してくれたユニフォームは長野久義と昨季限りで引退した新井貴浩。
そしてお酒好きの及川さんらしく「酒まつり」Tシャツが(笑)
及川さんが右手に持つのは本誌『野球太郎No.030 プロ野球選手名鑑+ドラフト候補名鑑2019』。
及川さん、PRにご協力くださりありがとうございます!
■及川奈央(オイカワ ナオ)プロフィール
タレント・女優
1981年生まれ、広島県出身。バラエティ番組やラジオ、ドラマ・Vシネマに出演後、映画や舞台などマルチに活躍。幅広い役柄をこなす。近年ではカープ女子としても活躍。
【主な出演作】TV『龍馬伝』『炎神戦隊ゴーオンジャー』映画『ヲ乃ガワ』『真白の恋』他多数
文・取材=山本貴政(やまもと・たかまさ)