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茂木栄五郎の早稲田大時代。つまらないバッティングはしない。4年春“バットを持った侍”が誕生

文=菊地高弘

茂木栄五郎の早稲田大時代。つまらないバッティングはしない。4年春“バットを持った侍”が誕生

俺、最近茂木が侍に見えてきたんだよな……


 茂木栄五郎(楽天)を初めて見たのは、今から10年以上もさかのぼる。桐蔭学園高1年時の2009年秋季関東大会に、茂木は4番打者として出場していた。

 171センチの身長は今と変わらないが、当時は線も細く主軸打者としては頼りなく映った。それでも茂木は小さなサイズを感じさせない力強いスイングでライトスタンドに本塁打を放った。その印象深い一打で、茂木栄五郎の名前は私の脳裏に刻まれた。

 その後、茂木は甲子園にこそ出場できなかったものの、名門・早稲田大に進学する。1年春からレギュラーをつかみ、東京六大学リーグで活躍した。2年時には不整脈を患い、手術を受けたものの、3年秋には打率.514で首位打者を獲得している。

 しかし、当時の茂木を見ていて私はさほど強い魅力を感じることはなくなっていた。打者としては柔らかさがあり、たしかに好打者ではある。それでも守備、走塁に突出した能力がないだけに、仮にドラフト指名を受けたとしても下位指名になるだろうと思っていた。

 その見方が変わったのは、茂木が4年生になってからだ。きっかけは『野球太郎』の名物企画「スカウト的観戦者カルト座談会」の席上でのこと。プロのスカウトたちも舌を巻く眼力を持つスカウト的観戦者の間で、「茂木のバッティングが変わった」という話題になったのだ。

 気になって、私も神宮球場に足を運んでみた。そこで4年生になった茂木を初めて見て、驚かされた。明らかに3年秋までの打撃とは迫力が違うのだ。インパクトの瞬間、球場に爆発音が鳴り響く。この小さな体のどこにそんな力があるのか、と思えるほど力強くボールを弾き返す。それまで大学6シーズンで通算3本塁打だった茂木は、4年春のシーズンだけで5本塁打を放ち、6月の大学選手権でも2本塁打を放った。

 神宮球場で茂木の打席を見ていると、スタンドの隣の席に座っていたファンがこんな感想を漏らしたのを覚えている。

「俺、最近茂木が侍に見えてきたんだよな……」

 たしかに打席でバットを構える茂木は、刀を手にした剣豪のムードを漂わせていた。

「つまらないバッティングをしているな」に発奮


 シーズン後、茂木にインタビューを申し込むと、やはり4年に入って打撃が大きく変わったことを本人は認めた。技術指導もするジムに通っていた茂木は、そのトレーナーから「つまらないバッティングをしているな」と叱責を受けたという。3年秋、首位打者を獲得した茂木だったが、タイミングを外そうとする投手に「合わせるバッティング」をしていたからだ。

 その言葉に発奮した茂木は、トレーナーとともにバッティングを一から見直すことにした。重要なのはタイミングだった。

「ボールの見え方を常に同じにすることを意識しました。どんな投手でも最後にストライクゾーンにくることは変わらないので、そこの見え方さえ変わらなければ自分のスイングができる。打ち損じたときの原因もポイントが絞れるので、修正しやすくなります」

 投手のフォームに合わせてタイミングを取るのではなく、インパクトの瞬間から逆算してタイミングを取る。その考え方をするようになってから、自分らしいスイングで終われる打席が増えたというのだ。

 2015年のドラフト会議では2位以内の指名が予想されたが、実際は3位の最後に名前が呼ばれた。サイズの小ささや故障の多さが嫌われたのかもしれない。だが、茂木は春季キャンプから1軍に抜擢され、打撃練習でも大学時代同様に爆発的なインパクトの快打を連発していた。この打撃を見て、評価しない首脳陣などいないだろうと胸をなで下ろした記憶がある。

 茂木はプロ1年目からレギュラーを獲得し、華々しく活躍している。4年目の昨季は自己最多の141試合に出場し、160本もの安打を放ってみせた。打率.282、13本塁打も立派な数字だが、茂木の実力を考えれば3割20本を求めたくなるところだ。

 それにしても、最大の驚きはプロで遊撃を守っていること。大学時代は主に三塁を守っている選手だったのだ。ただ、これは個人的な意見だが、そろそろ役目を他の選手に任せたほうがいいのではないだろうか。

 茂木は精いっぱい重責をこなしているものの、年間通して遊撃を守るには体に負担がかかりすぎる。三塁など他のポジションに移ることで、茂木の打撃力をより生かせるのではないか。遊撃経験があり、桐蔭学園高の先輩でもある鈴木大地をロッテから獲得したことや、ドラフト1位で大阪ガスの遊撃・小深田大翔を指名したのは、「三塁・茂木」への布石ではないかと勝手に思っている。

 バットを持った侍・茂木栄五郎の全盛期はこれからやってくると信じている。

文=菊地高弘(きくち・たかひろ)

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