金本監督は、ときに評論家から「我慢が足りない」と評価されることがある。しかし、自分のフィールドである野手采配はかなりダイナミックだ。特に若手野手には十分にチャンスを与えていると感じる。
「どこまでが我慢か」、「どこまでが若手か」の線引きはあるが、「100打席オーバー&25歳以下」の選手に焦点を絞れば、昨季は6人を起用した。内訳は以下の通りだ。
高山俊 530打席
北條史也 438打席
原口文仁 364打席
江越大賀 217打席
板山祐太郎 115打席
横田慎太郎 109打席
この起用数はかなりの高水準だ。同じく代打のあるセ・リーグ球団と比べれば、その差は瞭然としている。ヤクルトと中日が3人、広島が1人、巨人にいたっては0人である。DeNAは阪神を上回る8人だが、これは戦力の関係で2015年比では2人減。対して金本阪神は2人から6人に増加。江越以外は初の100打席到達だ。
パ・リーグは主力に若手が多く、球団の方針で年間打席数を管理している(といわれる)日本ハムが8人。それに準ずる若手起用を力技でこなしたのだから、方針に芯がある。
今季は春先から遊撃で起用していた北條史也の調子が上がらず、一時は鳥谷敬の復帰がささやかれたが、今度はドラフト5位ルーキーの糸原健斗を粘り強く起用している。6月時点ですでに6人の25歳以下の選手が100打席オーバー。今季もハイペースで超変革は進んでいる。
昨季の最終戦、甲子園に詰め掛けた虎キチたちは金本阪神に大声援を送った。4位という結果に終わったためブーイングも予想できたが、それ以上に世代交代が進んだことが好評だったように感じた。
しかし、ドラフトでは容赦ないブーイングを浴びた。1位指名は桜美林大の佐々木千隼(ロッテ)と目されていたが、金本監督の一声で白鴎大の大山悠輔に切り替わったからだ。
この指名には金本監督の強い意志を感じた。各ポジションで2人以上の若手を競争させたいという考えだろう。1年目の成果もあり、三塁以外のポジションは競争体制が整った。しかし、キャンベルを獲得したことからもわかるように、三塁は競争体制からひとつ取り残されたポジションだったのだ。
ここに鳥谷を据えることもドラフト時点で金本監督の脳内にはあったはずだ。ただ、5年後のチームを考えたとき、そこに脂の乗った選手がいないのは危険すぎる。
ドラフト前の時点で三塁手として期待できるのは陽川尚将(25歳)ぐらいしかいなかった。5年後は30歳。ここ10年ほど、阪神ファンの悩みの種であった「永遠の若虎」になっている可能性もある。
投手はある程度、即戦力が現れるものだが、高山のように新人王クラスの活躍をできる野手を獲得できることは稀だ。ポジションを定めて育成するほかない。
一連の思考が大山の指名に表れた。野手不作といわれた昨年のドラフトで三塁手を選ぶならばベストな人選だったことは確かだ。若手選手の起用はロマンのように感じるが、金本監督の采配は先を見据えた体制作りが背景にあるように感じる。
中村勝広氏が亡くなってから不在の「GM職」も兼任しているような立場といっていいかもしれない。
勝利と育成を両立する立場。ここが公然のひみつになれば、金本阪神の見方も変わってくるのではないだろうか。
文=落合初春(おちあい・もとはる)