プロ野球のシーズンオフの大きな話題といえばFA移籍。目玉選手の交渉段階から大きなニュースとして報じられるが、いざ契約成立となると、その陰では人的補償選手としてひっそりと所属球団を離れる選手もいる。
そして、シーズンが始まると新天地で悪戦苦闘するFA移籍選手を尻目に、望外の活躍を見せる人的補償選手も現れる。この顛末もまたFAをめぐるドラマの醍醐味だろう。
今回は大活躍した人的補償選手にスポットを当てる。
2007年オフに、ヤクルトから西武へFA移籍した石井一久の人的補償選手として、ヤクルトに移った福地寿樹(2012年に引退)。これ以上の活躍をした人的補償選手はいないと言いたくなる活躍を見せた。
福地は新天地で2008年に42盗塁、2009年も42盗塁を決め、2年連続でセ・リーグの盗塁王に輝いたのだ。
西武時代の2年間でもトータル53盗塁を決めていたことから、西武ファンの筆者にしてみると、福地がプロテクトから外れているとわかったときは疑問しか沸かなかった。そして、フタを開けてみたらこの結果だったのだ……。
もし、石井が西武で活躍していなかったら、ファンが暴動を起こしていたのではないか。そんな移籍劇だった。
投手で取り上げたいのは一岡竜司(広島)。2013年オフ、巨人にFA移籍した大竹寛の人的補償として赤いユニフォームに袖を通すことになった。
巨人に在籍した2年間での1軍登板数は13試合だったが、移籍した途端に31試合にまで跳ね上がり、防御率0.58で16ホールドと大ブレイク。タイトルには縁がないが、その後も貴重な中継ぎとして存在感を発揮している。
ちなみに対巨人の一岡の成績は以下の通り。一岡に軍配が挙がっている。
2014年:7試合/1勝0敗/防御率0.00
2015年:6試合/0勝1敗/防御率1.50
2016年:5試合/1勝0敗/防御率0.00
2017年:10試合/1勝0敗/防御率1.74
先発ローテの中核として期待した大竹がピリッとしないだけに、巨人としては忸怩たる思いだろう。
また、元巨人の捕手では、2005年オフに野口茂樹の人的補償で中日に移籍した小田幸平(2014年に引退)も、新天地で日の目を見た。
一岡ほどのブレイクとはいかなかったものの、2006年から2014年まで谷繁元信らのバックアップ捕手としてチームを支えた。
小田の獲得にあたっては、当時の落合博満監督が「プロテクトから漏れていると思わなかった」「大儲けと言っていいんじゃないか」とコメント。中日のチーム事情に合致した効果的な移籍だったことがうかがえる。
今オフも、すでに何人かの選手がFA移籍を決めた。来季も日の目を見る人的補償選手が飛び出すかもしれない。
このブレイク劇は、野球が筋書きのないドラマだから起こること。人的補償選手というと、所属球団から「不要」のレッテルを貼られた選手というネガティブなイメージがつきまといがちだが、他球団からは必要と認められた選手でもあるのだ。
「チャンスはどこに眠っているかわからない」。そんな事実を福地、一岡、小田の成功例が教えてくれる。
文=森田真悟(もりた・しんご)