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file#005 新井良太(内野手・阪神)の場合

ついにブレーク! 兄・貴浩に代わり4番を打つ


 新井貴浩に弟がいる。
 その事実は、新井良太が広陵高校で2000年のセンバツに出場した際初めて認識した。しかし、当時は今のように仕事という認識で血眼になって選手を見てはいなかったこともあり、じっくり見るようになったのは彼が駒澤大に進学してからであった。

大きな声で目立っていた駒澤大時代


 “戦国東都”と呼ばれる東都大学リーグの1部リーグ戦で、良太は1年生の頃から4番で出場していた。4年間で打った本塁打の数は14本。それだけで判断すれば、なかなかの活躍ぶりであったように見える。
 しかし、正直言って、この頃の良太のバッティングはいいときと悪いときの波が激しかった。それに加えて、優勝争いになかなか絡むことができなかった当時のチームの厳しい状況が重くのしかかる。チームが敗れればその矛先は4番打者に向き、チャンスで三振やゲッツーに倒れると、「いいかげんにしろ!」という怒号が平日の神宮球場をこだますることがしばしばあった。
 しかし、良太が他の選手に絶対に負けていないものがいくつもあった。ひとつはいかなる時でも大きな声を出すこと。さらに、プレーに懸命に挑む姿勢である。チーム全体を盛り上げ、精神的な勢いをつけることは、アマチュア野球において「時々どでかいホームランを打つ」こと以上に大きな武器だった。だからこそ、“名将”太田誠監督は良太をずっと4番で使い続けたのだろう。4年時にキャプテンになったが、それもある意味当然のことだった。



フィジカル面でも東都トップクラス


 とはいえ、良太が東都でトップクラスの選手であったことは間違いない。単に性格がいいだけなら、プロも獲得するわけがない。プレーの中で彼が特筆していたのは、当然のことながら第一に長打力である。
 当時、私は『野球小僧』誌の「炎のストップウオッチャー」の連載を始めたばかりの頃で、他にさしたる仕事があったわけでもないので、東都のリーグ戦に毎日のように通い詰め、選手の様々なプレーをストップウオッチで測定していた。そのときの測定で、良太は滞空時間6秒15の飛球を記録したことがある。
 これは少々説明が必要だが、内外野のいかなる飛球であっても、相応の打球スピードがないと滞空時間6秒を超える高い打球は上げられない。私はそのことを、この時期の東都と東京六大学のリーグ戦の徹底測定によってほぼ見定めていた。このタイムを見て、「彼はやはり特別。プロのもつ“聖域”に足を踏み入れている」と実感したものである。むろん、彼が打つ本塁打を1度でもその目で見た人ならば、人並み外れた長打力があるのはすぐに認識できるが、数字上の観点からしても、それが証明されたのだ。
 良太のいいところはまだある。彼が内野ゴロを打った際に一塁をかけ抜けるタイムはもっとも早いときで4秒20。俊足を一番の売り物にするタイプで左打者の場合は、4秒を切るのがプロレベルのひとつのラインとなるが、右打者はスタート地点が遠いため、4秒20を切れば十分俊足の部類に入る。一見、スラッガータイプの良太だが、このタイムなら脚力は十分あると言えた。実際、当時は塁に出れば狂ったように盗塁を試みる姿がよく見られた。



松田宣浩(ソフトバンク)と大差のないタイム


 さらに、この数字が十分プロのレベルで通用すると思えたのには、理由があった。当時、良太と同期でドラフトの超目玉とされていたのが、同じリーグの亜細亜大・松田宣浩(現ソフトバンク)。チームの不祥事により4年時は1部でプレーできなかったが、3年秋までに通算15本塁打を打っている。また、足も速く、いわゆる三拍子揃ったアスリートタイプとして多くのチームから注目を浴びていた。
 松田についてはまたいずれ詳しく紹介する機会があると思うのでここで多くを語るつもりはないが、興味深かったのは良太との測定タイムの比較した結果である。松田が打ち上げた飛球の滞空時間は最長で6秒70、一塁かけ抜けは最速4秒13。さすがドラフトの目玉だけに、良太のタイムをそれぞれ若干上回ってはいるものの、両者に大きな違いはなかったのだ。
 これを見たとき、私は良太もフィジカル面においてプロのトップクラスで活躍する能力は潜在しているという確信を持った。そこで、2005年11月に発売された『野球小僧』誌の「炎のストップウオッチャー」で、松田と、もう一人ドラフトの注目選手だった早稲田大・武内晋一(現ヤクルト)の特集記事を掲載するにあたり、当時の編集部員でこの記事のディレクションについて相談に乗ってもらっていた栗山司氏に「小さな囲み記事でいいから、新井良太を入れたいんだけど。いい?」と申し出をし、実際に掲載に至ったという話もあった。

野球界全体を元気にしてくれ!


 さて、その後の新井良太は、05年秋の大学生・社会人ドラフトで中日から4位で指名されたあと、時折1軍で気を吐く姿を見せながらも、大きな活躍ができないまま年月が過ぎていった。



 このまま、単なる「新井の弟」で終わってしまっては忍びない。私にとってはその思いが年々膨らむ一方で、それは良太が11年シーズンから阪神に移籍して「兄弟選手」という見られ方をされるようになってさらに大きくなっていたのだが…。今年になって、サヨナラを含む11本塁打。途中からは4番に入るなど、ついに待ちわびていた1軍での活躍を始めたのだ。私に限らず、プロ入り前のプレーぶりを知っている者にとっては、自分のことのように喜ばしいことであろう。
 大卒7年目、29歳でのレギュラー入りは遅咲きかもしれないが、この男がひとたび芯でとらえたときの打球の鋭さや、凡打でも一生懸命走る姿、そして、どんなときでも大きな声を張り上げる姿は、アマチュア時代からブレることはない。見ている人を元気にさせるそのパワーで、これからも阪神だけでなく、球界全体を元気に盛り上げてくれることを期待している。

文=キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事を野球雑誌にて連載つつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』(10月5日創刊)を軸足に活躍中。

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