全国各地の「球場」の歴史、秘密、物語を紐解く連載企画「球場の数だけドラマがある〜知っておきたい球場の話」。第2回で取り上げるのは甲子園球場だ。1924年からの歴史を持つ甲子園球場はまさに日本野球の聖地。そんな甲子園球場の歴史、トリビアを紹介しよう。
甲子園の名物といえば「甲子園カレー」。関西では1929年に梅田に開業した阪急百貨店の大食堂が提供したカレーが大人気となり、一気に市民権を獲得するが、実は甲子園では1924年の開場から名物としてカレーを売り出している。
これが美味、さらにコーヒーまで付いてくるハイカラセットだと評判を呼び、「甲子園カレー」は大人気になった。ちなみに開場当時の値段は30銭。かけそば1杯が8銭、並寿司が15銭だった時代に、なかなかの高級品だったが飛ぶように売れたという。
開場当時の甲子園のもう一つの名物だったのは、なんと水洗トイレ。沿線開発に力を入れる阪神電鉄にとって甲子園は「最先端技術」のモデルルーム的な役割も兼ねており、いち早く水洗トイレも取り入れられた。
当時の日本には高級ホテルなど、よほどのところにしか水洗トイレはなく、「水洗トイレとはどんなものか」と庶民が興味を持ち、甲子園名物のひとつになったという。
1900年代から1930年代にかけて、大阪〜神戸ではモダンな沿線開発が進み、今では「阪神間モダニズム」と呼ばれるが、甲子園球場もその一端を担った。
球場周辺に目を移しても「甲子園球場」には神業が詰まっている。特に隠れた職人芸が光るのは阪神電車のダイヤ。「甲子園には駐車場はありまへん」というキャッチの広告の通り、4万人超の観客の大半が阪神電車を使って来場する。それをさばくのが阪神甲子園駅だ。
甲子園発の臨時列車の時間を決めるのは駅長の仕事。客入りを球場で目視し、テレビ画面で試合展開を見ながら、阪神が負けていたら早めに、勝っていたら遅めに、など的確な判断を下す。そのノウハウは1世紀近く受け継がれており、日本で最も「大量輸送」に長けた駅といえるだろう。
甲子園のお供といえば、甲子園駅を降りて右手にあるショッピングセンター。買い出し目的で利用するファンも多いはずだ。ダイエー甲子園店から、2016年にイオン甲子園店に改称し、今年4月に三菱地所が運営するCorowa甲子園として再オープンしている。
その道路側の1階に新たに出店したのは牛丼チェーンの吉野家。吉野家といえば、オレンジが企業カラーだが、なんとここの吉野家は黄色のカラーリング。例の球団の色、オレンジを排除し、唐突に阪神っぽさを出してきた! 初見の人は思わずニヤリとしてしまうだろう。ちなみに近隣には黄色と黒でカラーリングされたローソンもある。
文=落合初春(おちあい・もとはる)