今季でプロ11年目となる浅尾拓也(中日)も肉体改造で復活を目指す。
やはりこの男には1軍のマウンドが似合う。2008年から中日不動のセットアッパーとして活躍。2011年には79試合に登板し7勝2敗、10セーブ、45ホールド、防御率0.41と圧巻の成績を残し、中日のリーグ連覇に貢献。MVPにも輝いた。
しかし、球界トップの抑えとなった浅尾の活躍は長くは続かない……。2012年には右肩の不調から、前年の79試合から29試合へと大きく登板数を減らしてしまう。その後も右肩の故障に苦しむシーズンが続き、1年間を通して1軍で戦うことはできていない。昨季は1試合も1軍マウンドには上がれなかった。
勤続疲労もあり、最速157キロを記録したストレートも今では140キロ前後。苦しい日々が続く。
それでも浅尾は復活をかけ、肉体改造を決意した。
昨年のオフに元ソフトバンクの守護神で、右肩の故障を克服した経験を持つ馬原孝浩氏に弟子入りした。また、採取した血液をアメリカの分析究機関へ送り、アレルギー反応を調査。控えた方がいい食事や、不足する栄養素を選び抜いた。さらに、ストレッチだけでも2時間行うなど、体のケアにも一層力を入れ、徹底的な体質改善に着手したのだ。
馬原氏は2012年に右肩を手術し、オリックス移籍2年目の2014年には自己最多の55試合に登板し、かつての輝きを取り戻した。そんな馬原氏の経験も浅尾にとって、最高の教科書となったことだろう。
4月2日の巨人戦で約1年半ぶりとなる1軍登板を果たした浅尾。5球で2人を打ち取り、上々の復活登板を果たしたかに見えた。しかし、4日の広島戦では1回を投げて4失点と乱調。試合後に2軍での再調整となった。
浅尾はまだ32歳。一線から退くには早い。復活を強く願いたい。
一方で肉体改造が裏目に出て離脱という憂き目にあってしまった選手もいる。それがオコエ瑠偉(楽天)だ。
昨季は高卒ルーキーながら51試合に出場し、本塁打も放ったオコエ。オフにはダルビッシュ有(レンジャーズ)から練習法を教わるなどし、体重はプロ入り時の90キロから98キロに増加。一目瞭然で「別人の肉体」となった。
オコエといえば、関東一時代に甲子園を沸かせた走塁が大きな武器。そのスピードはプロでもトップクラスといわれる。それだけに、スピードを保ったままパワーを増すことを意識したのだろう。また、メジャーリーガーのようなパワーヒッターを目指したともいわれている。
だが、この肉体改造は逆効果となる。
春季キャンプ2日目。オコエは右手の薬指のつけ根に痛みを訴え、側副靱帯損傷と診断された。その後、患部を手術。まだ、復帰には至っていない。昨年10月のフェニックス・リーグで右手の中指を痛め、それをかばって練習したことで大きなケガにつながってしまった。
肉体改造を優先するがゆえに体のケア、自己管理の甘さを露呈してしまったオコエ。しかし、勉強することも多い「これからの選手」。この悔しさをバネに巻き返してほしい。
今、まさに育成のため肉体改造に取り組んでいるドラ1ルーキーがいる。大山悠輔(阪神)だ。
2月の春季キャンプから1軍に帯同。オープン戦では9試合出場して打率.333、1打点と結果を残したが、3月中旬に2軍へ降格。これは大山の肉体を強く、大きく変貌させるために首脳陣が取った育成プランだ。
オープン戦の活躍ぶりからすると打撃はもちろん、守備でも軽快な動きを見せるなど、開幕1軍をつかんだように見えた。しかし、まずは「急がず育てよう」ということだろう。
金本知憲監督は「ある程度、予想どおり。一から体力作り。まずは(バットを)しっかり振る力と、体を大きく強くしようということ」と話し、7月中旬のオールスターゲームの時期までに体重を現在の85キロから4、5キロ増やすという具体的なノルマも話した。
ルーキーで1軍に帯同し続けるとなると、試合と並行して肉体改造を効果的に行うのは難しい。そこで急がずに、掛布雅之2軍監督の元で肉体改造と実戦のバランスをうまく取りながらの育成となった。
即戦力にもなり得たドラ1ルーキーの肉体改造を決断した金本監督。だが、じっくりと体を鍛えることが、今後の大山にとっては有意義だと感じる。一回り大きくなった大山が1軍で大暴れする姿を楽しみに待ちたい。
このほかにも松坂大輔(ソフトバンク)は9キロの減量。その成果もあってか、オープン戦ではほぼベストメンバーの広島を相手に7回を無安打無失点の好投。「平成の怪物」復活への第一歩を歩み出したかのように見える。まだ、制球などの課題が残るため、開幕1軍とはならなかったが、今季は期待できそうだ。
ひと言に「肉体改造」といっても方法や目的は様々。それぞれが生まれ変わった姿で飛躍や復活を遂げてほしい。
文=山岸健人(やまぎし・けんと)