高校野球界の名物監督に焦点を当てる本企画。今回は百戦錬磨の名将・馬淵史郎監督(明徳義塾)を紹介したい。
11月15日、明治神宮大会初戦。明徳義塾が星稜を8対5で下した。1992年夏、星稜・松井秀喜(元ヤンキースほか)に対する「5打席連続敬遠」以来、公式戦では初の対戦。しかも、現在の星稜の林和成監督は、その試合に選手として出場していた。今の選手たちにはまったく関係のないことだが、やはり高校野球ファンにとっては注目の一戦だったことに間違いはない。
1992年夏、大バッシングを浴びた馬淵監督だが、今でも当時の敬遠策を「勝利のための最善策」と胸を張る。野球は「刺す」「殺す」など物騒な用語が多いが、敬遠は相手を「敬う」。常々、馬淵監督はそう語ってきた。
先日の星稜戦では敬遠なし、打撃では小細工なしの強攻策に出たが、これもケースバイケースだろう。
2012年夏の高知大会決勝では高知高の4番・法兼駿を徹底マークし、6打席中5四球。1対1で迎えた延長12回表には、2アウト一塁の場面でも敬遠策に出た。リスクを取り、その裏、明徳義塾は2対1のサヨナラ勝利を収めている。
勝利を目指す姿勢はまったくブレていない。
近年は「勝利至上主義」という言葉が「手ごろな悪」として使われることが多いが、馬淵監督は一味違う。勝利を目指すからこそ人は成長できるという信条はもちろんだが、馬淵監督は「勝利至上主義」にしては、あまりに正直すぎる。
試合前には「うちは弱いから…」と煙に巻くものの、勝っても負けても試合後に戦術を明かしてしまうのだ。
馬淵監督はここぞの場面での声かけや相手投手の攻略法、をメディアに忌憚なく語る。本当に勝利に徹する監督は秘密主義を貫くものだ。勝てば「勝利の女神が微笑んだ」、負ければ「相手の執念に負けた」などと適当にはぐらかせばいい。しかし、馬淵監督は逃げない。
昨夏の高知大会決勝では、高知高のスーパー1年生・森木大智を攻略し、甲子園切符をつかんだが、ピッチングマシンを前に出し、速球対策をしていたことを明かし、「速いと感じなかった。精神的に優位に立てた」と語った。
先日の星稜戦もそうだ。「ビッグイニングを作らないと全国では勝てん」とバント少なめの強攻策の意図をメディアに説明している。勝利への執念やプロセスを隠さないのは、むしろ高校球界の後輩指導者たちにメッセージを贈っているのではないだろうか。
あふれる人間味と正直さ。そして円熟味を帯びた采配を「知る」ことができるのが、馬淵監督の魅力だ。来春のセンバツではどんな種を巻くのか。種明かしがあるからこそ、ワクワクすることができる。
文=落合初春(おちあい・もとはる)