レギュラーシーズンも残り僅かとなった、阪神タイガース。シーズン終盤の阪神対ヤクルトのヒーローインタビューで、今成亮太の発した言葉が気になった。
「いつも得点圏で打てなくて、温かい熱い野次ありがとうございます……。もっともっと野次ってください!」
確かに今成の得点圏打率は低い。チャンスに打てなくて、本人も相当悩んでいたに違いない。そこに容赦ない野次が、ドンピシャで飛んで来る。今成の自虐的とも思える言葉の意味を考えてみた。
今成の言葉を聞いて、田淵幸一氏が話していたことを思い出した。
阪神時代は、ホームランを打てばその日はこれでもか!というくらい持ち上げられ、翌日チャンスで凡打しようものなら、「もうお前はいらない、帰れ!」と野次られる。
その後西武に移籍し、3三振したとき、野次を覚悟していると、「明日は頑張ってください!」と逆に励まされ、ひっくり返ったことがあると言うのだ。
以前、札幌ドームで私は驚いたことがある。日本ハムの投手が、3ボールノーストライクとカウントを悪くすれば、場内から拍手が沸き起こる。どうやら、味方投手を勇気付けるための拍手らしいのだが、甲子園では考えられない光景であったからだ。
こういう場合、甲子園では、どよめきが起こる。
「なにやってんねん!」という一人一人のファンのため息や嘆きのようなものが、数万人分集約されるのだ。
当然、阪神の投手にはプレッシャーがかかる。
阪神という球団は、球界を代表する人気球団だ。阪神の選手は、メディアからも常に注目されている。
また、1軍半くらいの選手でもタニマチと呼ばれるスポンサー諸氏から、新地、銀座と連れまわされ、勘違いする選手も多いと聞く。
反面、関西人の気質も手伝ってか、甲子園の野次はきついと、今成のような他球団から移籍してきた選手は感じているようだ。
選手にとって阪神ファンは強い味方になることもあれば、逆に追い詰められ敵になることもある。
今成は、あの発言以来、チームのラッキーボーイ的な存在で、グラウンドでも生き生きしているようだ。何かが吹っ切れたようにすら感じる。
ファンを味方につける!
2012年に阪神へ移籍してきた今成。ようやく、阪神でのファンとの向き合い方を悟ったのかもしれない。
文=まろ麻呂